第14話

 

 先日はガラの悪い男たちに絡まれてしまったけれど、それ以外は楽しい観光だった。


 日本では見られない町並みは見るだけで感嘆の声を上げるほど。町の人たちはとても優しくてヴァンパイアだなんて忘れてしまうくらいだった。



「ねえ、皇子。また町に行ってもいい?」


 仕事の合間を見計らって皇子の部屋を覗き込み、問いかける。振り返った彼は怪訝そうな顔をしていた。


「連れて行ってやりたいが……今日は仕事が立て込んでいてな……」

 難しい顔の皇子に


「別に一人でも大丈夫だよ」

 と言ったけれど、その表情からすると許してはくれなさそう。


「この間のようなことがあったらどうする?一人では行くのは許可できないな」


 皇子の言うことは尤もだ。そう言われることを予想していなかったわけではないけれど。唇を突きだして拗ねれば溜息をつかれた。



「じゃあエリンと行く」

 いいことを思いついたと彼に提案すれば、少し悩んだ後また首を横に振る。


「ダメだ。あいつは戦えない」

「えー」


 不満たっぷりでそう返せば皇子は「そうは言われてもな」と困ったように笑った。




「──では、私がご一緒しましょう」

 低い声が私たちの間を通り抜ける。

 私の背後にいたのはエヴァンだった。


 皇子の眉がピクリと動く。

「私がサラ様をお守りいたします。それでよろしいでしょう」


 そう言ってくれるエヴァンをキラキラと輝く目で見上げた。


「いいの!?」

「……仕方がないからな」

 ぶっきらぼうだけど、照れたような表情をしているエヴァンが可愛い。


 皇子に「これでどうだ」と言わんばかりに視線を向ける。すると呆れたように溜息を吐いて


「……まあ、エヴァンならば安心だな」

 と渋々首を縦に振ってくれたのだった。



「ありがとう、ノア」

 椅子に座っている皇子の首に腕を回してぎゅっと抱きつけば、目を丸くしたその人が右腕をそっと私の背中に添えてくれる。


「……こんなに嬉しい褒美がもらえるのなら甘やかすのも悪くないか」


 私の行動に機嫌を直した皇子は、諦めたように笑った。


 エヴァンはそんな私たちを見て呆れたように肩をすくめていた。

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