第2話福の神様

 桜子は、義也を客間に通すと、お茶を用意すると言ってそのまま出て行った。そこには、高そうな絵画や、豪華な調度品が並んでいた。それらを眺めながら、彼は思った。

<何とか、このうちの一つでも持ち出せないかな? 売ればきっと、いい金になるだろう>


義也が、一番近くにあったアンティークのフランス人形に手を伸ばしかけたその時、桜子が、部屋に飛び込んできた。


桜子は、かなり興奮している様子だった。彼女は、大声で叫ぶように義也に向かって言った。

「やっぱり、あなたは、福の神様だったんですね!」


彼が何のことだか分からず呆然としていると、桜子が、猛烈な勢いでしゃべりだした。

「私の描いた絵が、特選に絵選ばれたんです! 何回コンクールに出しても、全然ダメだったから、今年もし入選できなかったら、もう絵は止めようと思っていたんです。それが、特選だなんて、本当に夢みたいです!」


彼女は目を潤ませながら、両手で義也の右手を掴んだ。

「ちょっと待ってください。それって、どういうことですか? 俺が、福の神だなんて・・・・・・」


昨日桜子は、道端にいた占い師に呼び止められて、『まもなく、お宅に福の神が来ますよ』と言われたことを義也に話した。

「その人に言われた人相や服装と、あなたがとてもよく似ているんです」

<この女、馬鹿じゃないの! そんなでたらめ信じるなんて。だが、うまくすれば、この女から、大金をせしめられるかもしれないぞ>

義也は、黙ってそのまま彼女に話を合わせようと思った。


 桜子は、義也のためにと豪華な夕食を用意してくれた。だが、そこへ家の主である健(けん)介(すけ)が帰宅すると、彼は、義也を見るとあからさまに嫌な顔をした。そして彼は桜子を奥に引っ張って行ったのだった。


義也には、二人の様子から、もめているのが分かった。

<女房が、どこの馬の骨とも分からない、みすぼらしい男を家の中に連れ込んだんだ。喧嘩になって当然だな>

 

義也は、追い出される前にと、手当たり次第にテーブルに並んだ料理を口に突っ込んだ。

<やっぱり、そんなうまい話は無いな。でも、こんなごちそうを食べられただけでも、よかった>


お腹もいっぱいになったので立ちあがると、そこへ桜子が戻って来た。

「あら、お代わりはいかがですか?」

「いいえ、俺はもう、これで失礼します」


止める桜子を振り切って、ドアの所へ向かった。しかしその時、それが勢いよく開いた。そこに現れたのは健介だった。彼は、突然義也の前で土下座した。

「疑った私が馬鹿でした! どうぞお許しください、福の神様!」


実は健介の経営する会社は、倒産の危機に直面していたのだった。だが、普通では考えられないような、大きな契約が取れて救われたのだった。

「本当に、奇跡だ! どうか我が家に、いつまでも、いてください」

それからというもの、義也の暮らしはすっかり変わった。立派な家で、毎日のように豪華な食事を食べ、小遣いも好きなだけ与えられたのだった。







 





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