第5話 自称ナンバースリーの男


 ギルドハウスから出て来たドーンとジェーニャ。


「これで冒険者の登録は完了だ、ギルドの掲示板に張ってある依頼書からクエストを受注できる」


「何から何まで教えて頂きありがとうございます!」


「あっ……ああ……」


 深々と頭を下げ礼を言うジェーニャ。

 ドーンは何ともむず痒い感覚を憶える。


(このジェーニャという娘、丁寧な言葉遣いも自然だし何より礼儀が出来ている……やはりどこぞの金持ち、貴族の娘か良家のお嬢様なのかもな……それと……)


「なあジェーニャ、そのご丁寧な物言いは俺に対してはしないでくれるか?」


「えっ? どうしてです? 親切にして頂いたお方には敬意を払わなければ」


 ジェーニャは不思議そうに首を傾げる。


「俺たちは冒険者だ、下手に出たら舐められる、俺には普通に話しかけてくれればいい」


(これもライラ師匠に俺が言われた事だな、今なら師匠の言っていた事がよく分かるぜ)


「そう言うものなのですね……はい、分かりました、先生がそうおっしゃるのなら」


「先生? よせよ、俺はそんなに大層な者じゃない」


「いいえ、こんな私に色々教えてくれたんですから立派に先生ですよ!!」


(コイツ、俺の言った事を聞いちゃいねぇ……)


 ドーンは深く溜息を吐く。


「お疲れですか? 先生?」


「ほっとけ」


「よう!! 女連れとは余裕だなトカゲ殺し!!」


 脱力していたドーンに厭味ったらしく嫌らしい声色で話しかけて来た男がいた。


「お前はサントス」


「サントス様だろ!! 俺様を呼ぶ時は様を付けやがれ!! なんせ俺様はこのオーキードナンバースリーの冒険者だからなぁ!!」


「よっ!! サントス様!!」


「流石です!! サントス様!!」


 複数人の取り巻きを引き連れたサントスが胸を張り威張って見せる。


「何です? この無礼な男は?」


「口を出すなジェーニャ、面倒な事になる」


 文句を言おうと踏み出したジェーニャをドーンが腕で制止する。


「よく言うぜサントス、お前赤黄色スカーレットに負けて帰って来たって言うじゃないか、そんなんじゃランキングを他の奴らに抜かれるぜ?」


「貴様!! サントス様に何て事を!!」


 取り巻き達が騒ぎ始めるがドーンは意に介さない。


「聞いたぜ、その赤黄色スカーレット、上位種のドラゴンなんだろう?」


「なっ……お前、どこでその話しを……」


 先ほどまでの威勢はどこへやら、サントスは急に神妙な顔尽きになった。


「失敗クエストは仕方ないとしてもギルドに情報を入れないのはどうだろうな? 大方報告をしないで手柄を横取りされない様にし、もう一度クエストを受注して赤黄色スカーレットを倒しそうって言うんだろうがそう上手くいくかねぇ」


「うっ、うるさい!! 四の五の言わずにそのクエスト依頼を俺に譲れ!! お前が受注したのは調べがついているんだ!!」


(キースの奴だな……)


 ギルドでは冒険者同士のいざこざを避けるため受注済みのクエストに参加している冒険者の名前やパーティー名を公表していない。

 理由は今のドーンたちの様にクエストの横取りや、勝手にクエストを下請けに出す輩がいるからだ。

 だから情報が洩れている場合は誰かが裏で意図的に漏洩している場合が多い。

 この場合ドーンとサントス両方に情報を提供したのはキースが思い当たるのである。

 

「断る、クエスト受注は早い者勝ちだ」


「そうかい、じゃあ力づくで奪い取ってやろうか?」


 睨みあうドーンとサントス。


「皆さーーーん!! このサントスという男、人からクエストを横取りしようとしてまーーーす!! こんな事許されていいんでしょうかーーー!?」


 急にジェーニャが声を張り上げる。


「この女……」


「皆さーーーん……!!」


「くっ、憶えていやがれ……」


 尚も叫ぼうとしたジェーニャに仕方なく引き下がるサントス。

 そのまま踵を返し立ち去った。


「ジェーニャ、お前なぁ……」


「怒らないでください……今にも心臓が破裂しそうで……」


 顔をしかめ身体を縮こませるジェーニャ。

 心なしか身体が細かく震えている。


「怖かったーーー、こんな往来で大声を上げたのは初めてです」


「仕方がない奴だなぁ……でも助かったぜ、クエストに出る前にゴタゴタはご免だからな」


「先生……」


 ポン……とジェーニャの肩を叩くドーン。


(ああいったやり方は男には中々思いつかないからな、しかしサントスには警戒しないといけない、今ので奴が諦めたとは到底思えない)


「じゃあな、俺は準備を整えたらその足でクエストに出発する」


 ジェーニャに後ろ手で手を振り別れるドーン。


「なぁ、何でついて来るんだ?」


 ドーンは振り向かずに語り掛ける。

 ジェーニャが三歩ほど後ろをずっとついて来るからだ。


「何でってそれは当然先生とご一緒するからです」


「待て待て、駆け出しのお前に付いてこられちゃ迷惑なんだよ」


「そんな!? 先生は私を見捨てるのですか!」


「そうは言っていない、お前はランクに見合ったパーティーに入ってそれに見合った低ランククエストを受てだなぁ……」


「今の男たちに私が酷い目に遭わされてもいいのですか!? 完全に目を付けられなしたよ!! 私がむくつけき男たちにあ~~~んな事やこ~~~んな事をされても平気なんですか!? 官能小説の様に!!」


「おっ、お前……!!」


 ジェーニャの大声に往来を歩く人々が反応し二人に視線が集まる。


「いいからこっちへ来い!!」


 ドーンは慌ててジェーニャの腕を掴み引っ張りながら走った。


「私も連れて行ってくれますね先生?」


「足を引っ張ったら承知しないぞ!!」


 当初の予定から外れ上級クエストに初心者のジェーニャを連れて行くことになってしまったドーン。

  

 しかしこの事が事態を大きく揺るがすことになろうとは今のドーンには思いもよらなかったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る