第4話 奇妙な出会い
西の森で赤黄色のドラゴンが古城を根城にして周囲の村落に多大な被害を出している模様。
急ぎ出向き赤黄色のドラゴンを討伐せよ。
酒場のカウンターで依頼書に目を通す。
これがドーンがギルドの掲示板から引き剥がしてきた冒険依頼書の内容だ。
ドーンは竜殺しの二つ名が物語る通りドラゴンがらみの冒険以来しか受けない。
それもこれも全ては自分の姉ドーラをさらったあの緑の鱗のドラゴンを探し出すためだ。
この世界のドラゴンには大きく分けて二つのタイプがいる。
身体的特徴は様々でなのでここでは主に知能面での区別を述べる事にする。
一つ、知能が低く本能の赴くまま破壊行動や殺戮行動に出るモンスターそのもののドラゴン。
このタイプになると知能面で見た場合、オオトカゲなどのモンスターとそこまで大差ない。
炎を吐いたり空を飛んだりする分、討伐対象としてはかなり上級なのは間違いないが知略を行使してこない分まだ戦い易い相手と言える。
手練れの冒険者ならそこまで強い相手ではない。
問題はもう一つのタイプ、知能がやたらと高いドラゴンだ。
このタイプは人語を解し流暢に会話をする事が出来る。
しかし意思疎通が出来るからよいという訳でもない。
ドラゴンこそ至高の生物と自らを謳ったり、人間や他種族を家畜同様と見下したりと高慢極まりない態度をとる者のなんと多い事か。
そして極めつけは彼らは魔法が使用できるという点だ。
巨大な体躯ゆえ直接攻撃力が高い上に各種魔法を併用して来るこの上位個体に対しては、たとえ上級冒険者がパーティーを組んで挑んでも勝てる保証がないと言われている。
ドーンも今まで討伐してきたドラゴンは前途の知能の低い下級個体である。
しかも全て単独での討伐だった。
「そろそろ上位個体のドラゴンに当たらないだろうか」
「おっ、ドーンの旦那、今日もドラゴンがらみにミッションを受けたんですかい?」
エールを煽り誰に語るでもなくそう呟いたドーンに見るからに性格の軽そうな男が話しかけて来た。
「キースか」
「前々から気になっていたんでがね、何で旦那はドラゴンばかり狙っているんです?」
キースと呼ばれた男はドーンの皿の上にある骨付き肉を一本勝手に取るとそのままかぶり付いた。
このキースという男、手癖の悪さや虚言癖などで冒険者仲間から酷く嫌われているのだ。
故にどこの冒険者パーティーに属することが出来ず常に一人でふらついていた。
しかし何故かドーンはキースの無礼な態度に食って掛かるでもなく見逃していた。
これは今に始まった事ではない、当のキースもその事を分かっていてドーンによくちょっかいを出すのだ。
「いいだろうそんな事、俺は単にドラゴンが嫌いなだけだ」
「さいですか、ちょいと拝借……あ~~~この依頼が出るのは三回目ですねぇ、何でもこの
「何だと? どういう事だ?」
勝手に依頼書を見て色々と語っていたキースの胸倉にドーンが掴みかかった。
「済みません済みません、勝手に肉を食っちまって!!」
「そんな事はいい!! 今の話しをもっと詳しく聞かせろ!!」
「わっ、分かりましたよ!! 頼みますから手を放してくだせぃ!!」
「ああ、済まない……」
慌ててドーンがキースの胸倉から手を放した。
「ちょいとお耳を……サントスの奴は自分たちの評価が下がるのが嫌で口外していないみたいなんですがね? どうやらスカーレットは人語を話す上に魔法を使うらしいんすよ」
「………」
キースの耳打ちに言葉が出ないドーン。
身体全体が微かに震えている。
「おや、どうしたんです旦那?」
「……いい事を聞かせてくれたなキース、オヤジ!! キースにエールを!!」
「あいよ」
「えっ? いいんすか?」
「ああ、残りの肉は食っていい、こっちこそありがとうよ!!」
「?」
首を傾げるキースをよそにドーンはカウンターに銀貨を置いて酒場を立ち去った。
(やっと見つけたぞドラゴン上位個体……人語を解する上位個体ならあの緑の鱗のドラゴンの事も知っているかもしれない))
いつもよりも力強い足取りで路地を歩く。
ドーンがドラゴンだけを付け狙って来たのは勿論ドラゴンが憎いという理由もあるがただそれだけでは無かったのだ。
情報収集、これは彼の師匠であるライラが口を酸っぱくして何度もドーンに言って来た事だ。
分からない事があるなら情報を集める、そういった意味で周りから煙たがられているキースの様な無礼なゴロツキをも利用する。
(しかし上位個体となると俺一人では討伐は難しいな……気は進まないがギルドで仲間を募るしかないのか?)
冒険者ソロ歴が長いせいでドーンはパーティーを組むという事に消極的だった。
仲間探しはある意味ドーンにとっては下位個体のドラゴンを討伐するより難しい事なのかもしれなかった。
「ちょっとあなた、竜殺しのドーンよね?」
背後から女の声がした。
振り向くと全身を純白のプレートアーマーに身を包んだいかにも裕福な冒険者であると主張している女が立っていた。
「あんたは?」
「ああこれは失礼、私はジェーニャ、冒険者よ」
純白のヘルメットを取ると美しいオレンジの髪が露になる。
美しい金色の瞳、整った顔立ちには気品の良さが漂っていた。
「見りゃわかる、そんな出で立ちをした町娘はいないからな」
「………!!」
ドーンの言い草にジェーニャの顔が見る見る赤くなっていく。
恥ずかしさもあるだろうがどちらかというとドーンの言葉に憤慨したのが大きな理由だ。
しかし言った当人のドーンにまったく悪気はない。
「まあいいでしょう、所詮冒険者に礼儀を期待した私が悪いんです」
「おい、聞こえてるぞ、そんな事はいいから用があるならさっさと言え、俺はこれでも忙しいんだ」
「まっ!! 本当に失礼な人ですね!!」
とうとう我慢できずジェーニャはドーンに怒りをぶちまけてしまった。
「これだからルーキーのお嬢様は……冒険者にごっこならよそでやりな」
「………」
その言葉にジェーニャは固まってしまう、それどころか目からは涙が一筋滴っている。
「おい、泣いてるのか?」
「……何で私がルーキーでお嬢様だと?」
「そりゃあ、そんな高級なプレートアーマーを持っているなんて余程の金持ちか上級冒険者くらいだろうからな、しかもあんたの名前を冒険者仲間に聞いた事が無い、それにその新品の装備からは冒険に出た事が無いのが見え見えだからな」
「さすがは竜殺し、観察眼が違いますわね」
「師匠の教えの賜物だよ、まずは相手をよく観察しろってな、そうすれば大抵の危機は乗り越えられるんだとさ」
「そうですか、いい師匠をお持ちなんですね」
「……その、済まなかったなあんたの事情も知ろうともしないで厳しい事を言った、あんたにもそうまでして冒険に出なきゃいけない理由があるんだろうにな」
「いいえ、いいんです、冒険者のイロハも分からずに飛び込んでしまったんですから」
涙を拭いながら微笑むジェーニャ。
その仕草にドーンは今まで感じた事のない胸の痛みを覚えた。
「仕方が無いな、話しはギルドで聞いてやるよ、酒場だとうるさい奴らが多いからな」
「ギルド……? それは何ですか?」
ジェーニャは首を傾げてきょとんとしている。
「……まさかとは思うが、あんた、ギルドには登録しているよな?」
「まあそうなのですか? 冒険者になるにはそのギルドとやらに登録しなければいけないんですね?」
「そこからぁ!?」
ジェーニャの余りの世間知らずさにドーンは軽く眩暈がした。
「仕方が無いな付いて来い、初めっから説明してやる!!」
「はい!! ありがとうございます!!」
大きな返事と満面の笑みでドーンの後を追うジェーニャ。
(きっとライラ師匠も俺と初めて会った時はこんな気持ちだったんだろうな……)
そんな事を思いながらジェーニャと共にギルドを目指して歩き出すドーンであった。
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