第12話 幸の願い
月曜日。
幸と一緒にお風呂に入った。
頭をごしごし洗っていると
「ねぇ、あと何回いったら、保育園やすみ??」
幸はしょっちゅうこの質問をしてくる。
「後ねぇ、4回。」
洗い終わって頭をザバーと流す。
4回程繰り返した後
「明日は1時おむかえがいい。」
お決まりのセリフ。
そんなに保育園が嫌なのだろうか。
それともいじめとか、何か悩み事があるのだろうか。
お風呂につかりながら、幸と向かい合って聞いてみた。
「保育園、楽しくないの?」
すると幸は首を振る。
「じゃぁどうして早迎えが良いの?友達もいるし、家でママといるよりよっぽど楽しいんじゃないかなって思うけど。」
だまって下を向く幸。
顔が暗い。いじめられているのだろうか。
一気に私も不安になる。
「ねぇ、幸、ママには言ってよ。なんでも話して。幸が言わないでって言ったら絶対誰にも言わない。幸が困ってたら、ママは必ず助けるから。正直に言ってみてごらん。怒らないし、解決策が見つかるかもしれない。・・ね?」
優しく諭す。
何も言わない幸。
「誰かにいじめられてるの?」
首を横に振る。
「それじゃ、何か嫌な事でもされた?」
それもまた、首を横に振る。
「保育園が嫌なの?」
そう聞くと、首をかしげるように横に傾けた。
「家の方が良いの?」
すると、幸が泣きだした。
私はピンと来た。太雅の時もそうだった。
母親が家にいると分かっているから、保育園には行きたがらないのだ。
当時の先生に、それを指摘されたことがあった。
もしかしたら、幸もそうなのかもしれない。
「幸、保育園より、ママと一緒が良いの?」
こくりと頷く。
「じゃぁ、誰かにいじめられてるとか、嫌な事されてる訳じゃないのね?」
こくりと頷く。
私はホッとした。わが子が虐められてたらと考えると、居てもたってもいられなかっただろう。だけど、私が平日家にいるようになった事を知った幸は、私といたいと言う願いが叶うかもしれないと思ったのだろう。でもわがままを言ったら怒られると思って言い出せなかったようだ。小さかった頃の太雅と同じ。
「そっかぁ。。そしたらさ!お母さんが病院に行かなきゃいけない日や、幸の保育園でイベントがある日以外は1時におむかえ行くようにしよっか!」
「いいの??」
少し嬉しそうな顔をしながら聞いてきた。
「いいよお。ママも幸といたいから!でもきっとパパは午前中だけで帰ったりとか、お休みするとか、きっと反対すると思うの。だから、二人だけの秘密に出来る??」
「うん。絶対言わない!!」
幸が笑顔になる。
ホッ。良かった。
「じゃぁ、約束ね。後でカレンダーに、1時帰りの所には小さく「●」って書いとく!それから、もうすぐ小学生だもんね。平日休む事は出来なくなるから、たまに休む日も作ろうか。ママと、たっくさん!遊ぼ!」
そういうと、幸は嬉しそうにしていた。
「ねえねえ、明日は?1時お迎え?」
キラキラした目で私を見てくる。
眩しいほど、子供は素直で純粋だ。
「明日は1時よ。何も予定ないから。」
そういうと、幸はニッコリして「ママ、大好き!!!」と言った。
「ママも幸の事、大好きよ~。だから、なんでも言ってね。」
ギューっと抱きしめてそう言った。
「うん!!・・パパには秘密なんだよね」
声を小さくして聞いてきた。
「そう。ひ・み・つ!じゃああがろっか。のぼせちゃう。」
それから、週に1回は16時お迎えの日があるが、週に2、3回は13時で帰る日を作った。
そしてたまに休んで、2人でしたい事を3つずつ言って、公園で遊んだり、家でカラオケしたり、お菓子を作ったりと楽しんだ。
甘いと言われるかもしれないが、いずれ子供は成長し、反抗期が来て、親から離れて行く。
今の内にいっぱい甘えさせてあげたい!と言うより、沢山一緒に思い出を作りたいという、私の気持ちの方が強かった。
ある日の朝、
「今日は1時お迎えなんだよね。お昼ご飯食べた後に来るんだよね。」
心配そうに幸が聞いてくる。
「そうだよ。先生に言っとくからね。」
そう言って、幸を先生に預ける時、「今日も熱もないですし、変わった所は特にありません。」とだけ言い、家へ帰ろうとすると、幸が「ママ!!!」と言い、人差し指を立てて私の方を見つめて来た。
あ!さっき話したのに、忘れてた。
私の悪い所である。※忘れっぽい性格
「あ、先生、今日は1時にはお迎え来ますね。」
「はーい。分かりました。
良かったね、幸ちゃん。ママ、早く迎えに来てくれるよ」
と言って部屋の中へ入って行った。
危ない危ない。マジ忘れてた。
車に乗り込み、幸が帰って来るまでの間に、夕飯の支度など、済ませておいた。
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