第11話 家族の尊さ
次の日、私は無事に退院出来た。
主人が待っててくれて、荷物を車まで運んでくれた。
「直人、心配かけてごめんね。」
と言うと、
いつにもなく、真面目な顔で
「美羽が倒れた時、段々ろれつが回らなくなっていっただろ?脳梗塞なんじゃないかって、すごい焦った。生きた心地がしなかった。でも、なんともないって分かった瞬間本当に良かったって心から思って。・・本当に良かった!子供達も心配してる。車の中で待ってるよ。」
そんなに心配してたんだ。
ただでさえ、今は仕事も休んでこんな状態なのに、本当にゴメンなさい。
私はもう一度、心の中で直人に謝った。
「そういえば聞きたかったんだけど、私が倒れて救急車で運ばれた時、太雅達はどうしたの??」
「すぐにおふくろに電話して来てもらって、そのまま寝てる二人を家で見てて貰ったよ。一度も起きなかったって。それから朝起きて、『お母さんがいない!!』って、その時に初めて子供達は焦ってたけど、事情話したら、2日ぐらいなら我慢できる!って言って、ご飯作るの手伝ってくれたり、洗濯物一緒にたたんでくれたり、ニコの散歩やごはんやりも積極的にしてくれた。頑張ってくれてたよ。」
そうなんだ・・。
少しホッとした。
「お義理母さんにもお礼言わなきゃいけないね。」
「俺のおふくろの事は気にしなくて良いよ。『ただ見てただけ』って言って、お礼はいらんからねって散々言われて帰ってった。それより、家でゆっくりしてねって。」
はぁ・・。なんと優しいお義理母様。足を向けて寝る事なんぞ出来ませぬ。
そう。私はうつ病になってから、誰にも会いたくなくて、仕事がある日以外はほとんど家から出なかった。去年は主人の実家にも、自分の実家にも、新年の挨拶すら行かなかった。毎年渡していた誕生日プレゼントも買わなかった。本当に、人と関わる事が嫌でたまらなかった。もう全てから自分を消してしまいたいと思うぐらい、私の心はズタズタだった。人にどう思われても良い。非常識な人間だと笑われても良い。唯一の救いは、職場では普通に人と接することが出来た事だ。それがなぜだったかは、今でも分からない。でも、考えない。うん。
車へ着いて、窓を覗き込むと、
「ママーーーーー!!!!!!!」
「お母さん~!お帰り!!!!!」と
二人が飛び出してきて、ギューっと私を強く抱きしめてきた。
「ゴメンね、心配したね。夜は眠れた?ご飯はちゃんと食べれた?」
しゃがみ込んで、子供たちの顔を覗き込むようにして聞いた。
「うん!幸なんてね~、こーんなに!こーんなよ!食べた。」
・・何を?
「それじゃわかんないよ幸。お父さんがね、外山弁当で毎晩お弁当買って来てくれて、お味噌汁はお母さんが作り方を教えてくれたでしょ。俺、それ作ったんだよ。ばあばも夜来てくれて、みかんもらったよ。」
太雅が詳しく教えてくれた。
「そう!良かった。留守にしててゴメンね。
良い肉はお母さん駄目みたい。もう胃液も少ないのね。太雅や幸みたいに、油が消化できないみたい。もう年ね。」
「お母さんは年じゃないよ!若いよ!」
太雅がムキになって言う。いつまでも母親には綺麗でいて欲しいと思うのだろうか。
「あはは。ありがとー。もうお母さん復活したから、心配いらないからね。」
「もう、“にゅういん“とかしない?」
幸が不安そうな顔で聞いてきた。
荷物を乗せ終わった主人が
「もう、お母さんは大丈夫だぞー。良い肉は、もう食わせないからな!」
といって、がははと笑った。
「そう。お母さんはやっす~い肉が体に合ってるみたい。安上りでしょ~!」
と言って一緒に笑った。
子供達も私の笑い声を聞いて安心したのか、一緒に笑った。
だが、その日は二人とも私にべったりだった。
2日間いなかったのが、本当に寂しかったのだろう。
もうすぐ小学4年生になる太雅ですら、私がソファに座ったら、すぐにくっついて横に座ってくる。
やっぱり、まだまだ親が必要な時期なんだな。
そう実感した瞬間でもあった。
うつ病で気分が底辺だった時、夜中、子供たちが寝た後、
「死にたい死にたい!!!!」と泣き叫んだ事もあったが
でも、願望はあっても実行には移せなかった。
理由は「子供」だ。
私がいなくなったら、当然子供たちが悲しむ。
それを思うと、それだけは出来なかった。
ある意味、それが私が生きている意味でもあるのかもしれない。
ニュースで“一家心中”とか、悲しいニュースを見ることもある。
うつになる前は「子供まで巻き添えにしなくても・・。自分一人で死ねば良いのに。」なんて憐れんだ事があったが。今は考えが変わった。
「自分は死にたい。だが、死んだ後の事を思うと子供が可哀そう。とても置いてはいけない。」それで最悪なパターンを選んでしまうのだと。
いずれにしても、自己中心的な考えであることに違いはないのだが。
立場が変われば見方も変わる。
それでも、人は誰かの為に生きていかなくてはいけない。
“明日はない” それを自分で作ってはいけないのだ。
家族がいる。友人がいる。手を差し伸べてくれる人がいる。
私は一人じゃない。
笑顔で子供達の傍にいて、時に間違えた方向へ進もうとした時は、正しい道を教えてあげるのが私(親)の役目でもあるのだから、私は絶対に死ねない。
・・・・お?
やっぱりこれって悟り、開けるくない?
バカなことを考えながら、心の中で笑った。
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