第10話 入院

2日間の入院生活。

「ひまぁ~・・・・・・。」


でも、直人は大変だろうな。

子供の送り迎えやらご飯の準備。

ほんっと申し訳ない。


今はコロナで病室にも誰も入れないようになっている。

着替えやら必要なものは受付に預けるようになっているらしい。

誰も来ない=話し相手もいない。


太雅も幸も大丈夫かなぁ。

てか、私が運ばれてる時、直人も一緒に来たんだよね。

太雅と幸は?

どうしてたんだろう。


ブーブーと携帯が振動した。

直人だ。


「体調どう?必要なものがあれば届けるけど、あと1日だね。

明日迎えに行くから、時間分かったらまた教えて。」


と言う内容だった。


直人ぉ~。

ありがとう。

命の恩人。


思わずスマホを抱きしめると、

「すみません。カウンセリングの黒木と申しますが、失礼しても宜しいでしょうか。」


「あ、はい。どうぞ。」


ん?この声は・・・・・。

「黒木君じゃん!」


「ビックリしたー!山本じゃん。あ、今は結婚してるから、名字が変わって「北川」か。」

そういって笑った。


「うわぁホントにカウンセリングの先生やってんだ!なんか凄い!カッコいいよ。」

上から下まで思わずマジマジと見てしまった。白衣姿がなんとも凛々しく見える。


「照れるね。・・っと、私的な話は今度するとして~、何か悩み事とかある?旦那さんから、うつ病は3年ほど前から患ってるって聞いてるけど。」


う・・。バレた。だよね。旦那が医者に言ってたし。カルテに患者さんの事、詳しく書いて有るのは当たり前か。


「そう。うつ病ね。それはカルテに書いてる通り。かれこれ3年ちょっとになるかな。まぁ色々有ったんだわ。でも今は、ここから近くの市原っていう精神科専門の病院通ってて、だいぶ落ち着いてきてる。仕事をする事は禁止になってるけどね。」


「なるほど。」

私の話した事をメモを取りながら聞いていた。


そして小さな声で私が言う。

「あのさ、私が倒れた理由。恥ずかしいんだけど、、夜に家族ですき焼き食べたらさ、良い肉食べ過ぎちゃって。良い肉って刺しが凄いでしょ?それで胃も垂れしちゃって。夜中に気分が悪くなってトイレに行ったの。それで嘔吐と下痢、両方来て焦っちゃったんだよね。それで呼吸が乱れたんだと思う。こんな事、医者に言えなくって。悩みがあって“かかんきしょうこうぐん”だっけ?それになったと医者は思ってるけど。実際は、『食意地がはっててこうなった』んだよね。」


「ぷっ!」

黒木君が声を抑えるようにニヤニヤ笑った。


「やまも・・じゃなかったな。北川らしいな!食意地がはってるって、確かに医者には言いずらいけど、正直に言ってりゃ入院しないで済んだかもしれないのに・・ったく、お前らしいな。で、特に今の所、悩みがあるとかは無いわけね。」


「うん。ない。仕事も今はしてないし、家庭で何か問題があるっていう事もないし。ただ、うつ病が治るのかなって言う不安は時々。」


さっき、食意地がはってと暴露したこと、めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど。

でもその通りだしな。穴があったら入りたーい(涙)


「不安は常に?」


「うーん。薬飲んでるせいか、ずっとって訳でも無い。仕事が出来ない不安とか、主人に対して、申し訳なさを感じたりとかかな。

でも、この前黒木君が言ってくれたじゃん。“深く考えない”、”考えて解決しない事、悩まない“それから”焦らない“。これね、紙に書いて冷蔵庫に貼ってるよ。体調悪くて辛いなーって思った時、それ見ると、気持ちが少し楽になる。」


すると、黒木君が

「ちゃんと北川の心には届いてくれてたんだな。」


「なによぉ、あったりまえじゃん!!黒木君のアドバイス、的確だったよ。感謝してる。あの時言ってたけど、他の患者さんたちの心にもきっと、届いてるよ。うつだとさ、顔に上手に感情が出ない時もあるし、うまく話せない時もあって分かりづらいかもしれないけど、きっと、届いてる。」


黒木君が下を向く。

そしてクククと笑った。

「腹がいてぇ。どっちがカウンセラーかってな。」


「いーじゃーん。私もうつ病になって、いろいろ悟る所もあったのよぉ。これでも苦労してんだから。私も心理カウンセラーなれるかもっ。」

笑って言うと、黒木くんも明るい笑顔で笑った。


「良かったらさ、今度司も誘ってご飯食べでもしようよ。

私、うつで無職・・いや、専業主婦だし、時間はいつでも作れるの。症状も落ち着いてるし、今なら外出もできるから。」

そういって、連絡先を近くにあった紙とペンに書いて渡した。


連絡先を書いた紙を渡した時、黒木君が少し困惑した顔をしたのを、私は見逃さなかった。


ん?何か、問題があるのか。


「あ!仕事とか忙しくて無理だったら、良いから。

・・・女2人と男1人じゃつまらないだろうし。」


「いや、いいよ。また連絡する。

北川も、病気が良くなったからって、焦らないようにな。うつ病に焦りは絶対禁物!!仕事を禁止されるって、よっぽどの事があったんだろ?言わなくて良いけど。なんかあればお前からも連絡してこいよ。同級生のよしみって事で、無料でカウンセリングしてやるよ(笑)退院は明日だろ?俺は明日見送り出来ないけど、、」


私は頭をぶんぶん横に振って、

「いやいや、全然!そこ申し訳なく思う所じゃないから!タダで相談乗ってもらえるなんて、ラッキー♪」


「わりぃな。カウンセリングの予約が詰まってるんやわ。・・それから、さっきの言葉、サンキューな。元気出た。北川も、身体大事にしろよ。」


そう言って病室を出て行った。


私の言葉・・?


「なんかいい事言ったっけ。」


食意地っぱりのせいでの下痢、嘔吐・・。

恥ずかしい事を暴露した記憶しかないんですけど。

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