【 いつか見た景色 】


 無数の星たちと、無数の虫の音が、僕の体を包み込んでいる。

 見開いた目からは、自然に涙が零れ落ちた。


 さっき見たモエ姉の涙と同じだ。

 悲しい、でも、どうすることもできない虚しさ……。


 自分にできることなんて、何もありはしない。

 このまま、自然に任せるしかないのか……。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 無力な自分が情けない……。



 ――どれくらい星空を眺めていただろう……。

 その時、遠くからどこか聞き慣れた声がしてきた。


「……。マモちゃーーん!」


 この声は、モエ姉の声だ。

 上半身を起こし、声のする方を見る。


 すると、いつか見た時と同じ光景。

 橋の上から自転車に乗った霞んだモエ姉が見える。


 慌てて涙を両腕の服で2度拭くと、今度はハッキリと分かった。

 大好きだったモエ姉だ。


 僕は立ち上がり、彼女に大声を出しながら、両手を大きく振った。


「モエ姉ーーーーっ!」


 モエ姉が気付いて、橋の上から同じように両手を振る。


「マモちゃーーん!」


 あの時と同じ。

 違うのは、少しだけ彼女の声が震えていたことだけ……。



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