【 動き出した呪文 】


 勝手に足が動いていた。

 勢いよく2階から1階へと降りてゆく。

 手が自然にリビングの扉を開ける。

 そして……。


「父さん、母さん、もうやめてくれ!」


 驚いたふたりが一斉にこちらを見た。

 僕は震える声で続ける。


「もう、別れるなんて言うなよ……。もう、おしまいなんて言わないでよ……。僕たち家族は、何度もリセットできるゲームとは違うんだ!!」


 そう叫び終わると、また勝手に足が動いていた。

 リビングを飛び出し、玄関のドアを開け、暗い夜道をひたすら走った。


 走って、走って、どこまでも暗闇を走った。


「うおぉぉーーーーっ!!」


 大声を出して泣きながら、全力で走っていた。


「何でだぁーーーーっ!! 何でなんだぁーーーーっ!!」


 僕には分からない。大人の考えが……。

 いつだって、そう。子供のことなんて、僕のことなんて、全然考えてくれない……。


 身勝手に何度も家族を変えようとする……。

 僕のことも、前の姉さんのことも、そして、モエ姉のことも……。


 泣いて、泣いて、泣き続けた。

 走って、走って、走り続けた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


 そして、走り疲れた頃、気付くといつも学校から帰る時に通る川の土手に来ていた。

 僕は疲れて、そのままそこに大の字で横たわる。


 見上げると、今日の夜空は、僕の心とは裏腹に、なぜか綺麗にとても澄んで見えた。



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