【 ガチャ再び? 】


「どうしてなの! 私との結婚を最後にしたいって言ってたのに!」

「誤解だって言ってるだろ! お前は俺と別れたいのか!」


 突然、1階のリビングから聞こえてきた、母さんと黒縁ダンディーおじさんの喧嘩けんか

 2階にいた僕たちの部屋まで、その声は聞こえてくる。


 何かまた、おかしな方向へ向いていく、そんな予感がした。

 大学受験のための勉強をしていたモエ姉が、たまらず口を開く。


「最近、ふたりの口喧嘩、増えたね……」

「うん……」


「また、あるのかな……。離婚……」


 僕はそのモエ姉の言葉に、ハッとした。


 もう、ガチャはこりごりだ。

 僕はそのために、初恋も諦めざるを得なかったのに。


 ふたりの復活の呪文は、あるのだろうか……。


『ガチャン!!』


 その時、何かが割れる音がした。

 もう、この四人での生活も終わってしまうんだろうか……。


「もう、私たちおしまいよっ!!」


 母さんの絶望に満ちた甲高かんだかい声が、家中に響き渡る……。


 ふと、隣で勉強机に向かっているモエ姉の方を見ると、目をつむって肩が小さく揺れている。

 すると、モエ姉の閉じた瞳から、ポトリ、ポトリと光るものが落ちてゆくのが見えた。


 その瞬間、僕の中の復活の呪文のスイッチが、突然入ったんだ……。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る