第16話 偶然

× × × × ×


 放課後、川口とみどり、翼と俺、四人ともそれぞれバラバラに教室を出た。そして、みどりと翼、俺の三人は図書室に向かった。あそこなら放課後に使う人は相当な本好きか、自習室より人が少ない場所で勉強したい人くらいなため、テスト期間中以外はほとんど人が居ない。変に教室に居て、忘れ物を取りに来た川口と鉢合うよりよっぽどいい場所だ。


「梓は部活見学するんだってさ」

「そっか。来週まで部活勧誘あるもんな」

「そ。颯君は何か入らないの?」

「うーん。まだ悩んでるけど。せっかくだし今日の話が終わったらフラっとあちこち見学してみようかな」


 みどりと部活見学の話をして間もなく、ガラガラと図書室の入り口のドアの音が聞こえた。と言っても、ここは図書室の奥の方なので、ドアの人影は見えない。音に反応したところで翼かどうかわからないが、恐らく翼だろう。


 そんな予想は裏切ることなく、スタスタと翼がやってきて、俺の隣に腰かけた。


「ごめん。誘っておいて俺が一番遅かったな。まぁ、飲み物買ってきたからこれで許してくれ」

「ありがとー」


 うちの高校の図書室は、香りのきついジュース類でなければ飲み物は許可されている。中学の頃は飲食禁止だったから緩くていいなと思った。


「それで翼君。梓だけ省いて何の話なの?」

「昼に颯には言ったんだけど、俺、梓のこと好きなんだ。だから、二人には俺と梓の仲を取り持って欲しい」

「おー。これはこれは。私は全然いいけど、颯君もその、いいの?」

「俺にできることがあるかはわかんないけど、一応ね」

「ふーん」


 俺に質問をしたみどりは俺の回答を聞いて何やら考え込んでいる。翼が心配して声を掛けるが、手で制止されてしまった。それから数分うんうん唸っては俺の顔を見てくる。良く分からず、何か? と仕草で表現するが、みどりとしては特に回答が欲しいわけではないようだ。


 数分考えた後、ニヤッとしたみどり。まぁいっか。と一人で納得して一人ごちった後、俺達に顔を向けた。


「いいよ。翼君と梓の仲を取り持ってあげる。というかサポートするよ。改めて颯君もそれでいいんだね?」

「ん? ああ。俺は見てる専門だろうけどね。何かアドバイスできるわけでもないし」

「それでいいんだよ。時々私からも何かお願いするだろうから、考えて答えたりとか対応してくれればいいから」


 やけに念入りなみどりの俺への確認。俺は川口の保護者か何かなんだろうか。


「早速何かするの?」

「いきなりは何もしないかな。とりあえず、二人で出かけようって話はしてたけど、あんまりいい回答貰えてないから、やっぱり四人で出かけてって感じがいいな。その辺、みどりから上手く切り出してもらえると助かるかも」

「なるほどなるほど。おっけー。そういうことなら任せて。颯君、どこ行こっか?」

「買い物とかが無難かね? それか映画とか、夕飯食うだけでもいいかもね」

「じゃあ、颯君と梓の地元でご飯しよ。それで、翼君が梓の家の近くまで送る。そしたら二人で話す時間もできるでしょ?」


 なるほど。俺が送っていることを知って、それを翼にやらせる魂胆か。ありかもしれない。俺の帰宅も早くなるだろうし、皆幸せだな。そうなると、何を食べようかという話だが、高校生だしファミレスが時間もたくさん確保できて、お財布にも優しいな。であれば、うちの地元でも問題無さそうだ。


「あれね。名目は私が梓の地元に行きたいってやつね」

「みどりマジサンキュー。それで行こう。颯も頼むわ」

「おう」


 こうして、川口と翼の仲を取り持つ第一作戦が決まった。作戦が決まってからはさっさと飲み物を飲み、翼もみどりも部活へと向かった。この話をするために、わざわざ遅れると先輩に言ってきたらしい。翼の本気度が伝わったと同時に、みどりの友達想いな感が見て取れた。


 二人が居なくなったものの、俺は時間を持て余しているので、もう少し残って紅茶を飲んでから出ることにした。この紅茶懐かしいな。紅茶会社の回し者風の戸田は元気だろうか。翼みたいな人と川口が仲良くなる話を聞いているだろうか。聞いていたら何を思うか。やや気になるところではあるが、わざわざ聞くようなことでもないので、思考はそこまでにした。


× × × × ×


 図書室を後にした俺は、文化部が集まる部活廊下、通称部廊に来た。勧誘期間ということもあり、各部の入り口はようこそ! とどこも歓迎模様だった。場所によっては特に何も歓迎がされていないが、そういう部室は休みかそもそも空き部屋かの二択だった。こうして見ると文化部も結構な数が存在していることが良く分かる。音楽系は音楽室だろうから実際には更に多いだろう。


「こんにちは~。覗いて行きませんか~?」

「じゃあ、お願いします」


 文芸部。ほわほわした女の先輩に後ろから声を掛けられ彼女に引かれるがまま、部室へと入った。三人の部員が中に居た。それぞれ本を読んでいたようで、俺が入った途端に本を閉じてこちらを見ている。どうやら、ほわほわ先輩は離席していて戻ってきたところらしい。他の部員と同じように本を読むつもりだったようで、机の上に一冊の本が置かれていた。


「さすが文芸部。本がいっぱいありますね」


 机以外には壁の本棚にびっしりの本が置いてある。図書室の色々なジャンルが置いてあるのに対して、文芸部の本棚は同じ作家の名前の書いてある作品が固まっているところもあり、本好きが集まっていることが見て取れた。


「図書室の倉庫も兼ねていますが、本の中身に関しては文芸部が独断と偏見で倉庫にしまったので、偶然にも同じ作家の作品が集まってしまったんです」


 この本の並びは、あくまでも偶然でたまたまらしい。たまたまなら仕方ないかぁ。とはいえ、俺が取り締まる立場でもないのでそれ以上の言及はしない。


「他の部活も見てますか?」

「はい。とりあえず文化系って決めている感じです。この廊下に文化系の部活が集まっていると聞いたので、覗いてます」

「そっかー。じゃあ、文芸部志望ってわけでもないのかー」

「すみません」

「他も見て吟味してね! もし入るところが無ければ文芸部はいつでも歓迎するよ!」


 優しい先輩だ。他の先輩方も迷ったらこいよー! と、歓迎ムードで部室から送り出してくれた。


 それから、放送部ではお昼の放送の原稿を見せて貰い、ファッション部ではイケイケなお姉さん方の着せ替え人形になった。美人が多かったこともあり、とてもいい気分になり、思わず入部しますと言いそうになる。しかし、対してファッションセンスがある訳でもないし、ファッション部の作る服が個人的にタイプではないこともあり、理性を保って部室を後にする。


 どこの部室の入り口も「初心者歓迎!」とか「ようこそ」とか「体験できます!」とかのポスターを壁に貼っており、文芸部やファッション部同様、どこの部活も歓迎ムードで部活勧誘期間を過ごしているようだ。運動部ほど活発ではないので、落ち着いていてとても過ごしやすい。


 最後の部室まで来た。といっても、ここが部室かは分からない。特に歓迎ポスターを張っているわけでも、部活の名称を書いた札を張っているわけでもない。空き部屋なのだろうか。


 その空き部屋に見える部屋の入り口のドアは完全に閉まり切っていない。どうやら中に人が居るようだ。先生が授業で使うものを保管する倉庫だったりするのだろうか。


 気になるので、俺はこっそりとドアを開けて部屋を覗いた。中に居たのは先生ではなく、一人の女子生徒だった。

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