第14話 新グループ

「はい。それではペアになって発音の練習をしてください」


 入学式を終え、校内案内もある程度されて、さっそく授業が始まった。今は英語の授業。最近では、ニュースでもグローバル化という言葉をよく耳にするが、学校の授業もグローバル化を目指しているようだ。中学までは覚えるだけの英語が多かったが、北高の英語は実戦的な英語だった。通常の英語の授業とは別に、コミュニケーションメインの英会話のような授業があった。先生曰く、授業が始まってある程度は日本語も交えて指示出しもするが、ある日を境に授業中は基本的に英語だけで授業を進めると言われた。早めに覚えておかないと大変そうだ。


「よろしくな!」


 クラスを分けて行うこの授業では、出席番号順に座ることはなく、皆適当に座っていた。隣の人練習をするわけだが、俺の隣には目白翼というスポーツ少年が座っていた。どこかで聞いたことがある気がする名前だが、同性同名の知り合いは居ないので、何かのドラマかアニメで見たのだろう。


 今日の英会話のペア練習はお互いの自己紹介だ。目白はどうやら、ハンドボール部に入っているらしく、見た目通りのスポーツ少年だった。髪はパーマが充てられた茶髪のため、チャラチャラしている雰囲気があるが、頑張って英語を話して自己紹介しようとするあたり、真面目な性格なのかもしれない。その点では、常陸に似ている部分はある。個人的には絡みやすいタイプなので、ペア練習の相手としてもかなり助かる。


 お互いにペア練習を終えたところで、目白の肩越しに川口とみどりの笑いながら練習している姿が目に入った。あの二人はすっかり仲良しさんで、授業も休み時間もよく一緒にいる。二人の姿を見ていると強引な部活勧誘というお互いの始まりがなくても仲良くなっていた気がする。そんな風に二人を見ていると目白が川口達の方に振り返って俺の見ている先を確認して俺の方に向き直った。


「入学式の後から仲良さそうなとこ結構見るけど、どっちか神田の彼女?」

「いや? 普通に仲良いだけだよ」

「そうなんだ。どっちかかその両方があると思ったんだけどな」

「その両方ってなんだよ」

「高校生だしセーフじゃね?」

「倫理的にアウトだろ」


 常陸みたいなやつと言ったが、前言撤回しよう。目白と常陸の違う点は、女好きの度合いだ。常陸は普通だが、目白は明らかな女好きだ。このイケメン運動部、ひょっとしたらひょっとするかもしれない。


「目白は彼女が二人も三人もいるのか?」

「そんなにいたら大変でしょ。さすがにいないって。あ、それと俺のことは翼でいいよ」

「了解。じゃあ、俺も颯でいいよ。翼の思考的に居そうだと思ったんだけどなぁ」

「俺のことどう見えてるんだよ」

「ん? チャラ男イケメン運動部」

「何その雑なカテゴライズ」


 嘘は言っていない。チャラそうだし、普通にイケメンだし、運動部だし。貶すようなカテゴライズというのも気が引けるのでイケメンという誉め言葉も添えたわけだ。


 各ペアの練習が終わったところでチャイムが鳴ったため、今日の授業が終了となった。教室に戻ろうとすると、翼が俺のことを待ってくれていた。急いで出している物を片付け、二人で教室を出る。


「颯、部活は?」

「まだ決めてない」

「ハンド部入らない?」

「んー。文化部入ってみたいと思ってたから、良い部活が無かったら検討かなぁ」

「良い部活なくても検討レベルなんだね」

「のんびり暮らしたいんだよ」

「颯のポリシーみたいな感じか」

「そゆこと」


あまり本気の誘いではないだろうが、ハンド部の強引な勧誘の中に居たからいいイメージがない。翼には悪いけど、あまり乗り気じゃない。ハンド部が何をしたかはさっぱり覚えてないから、そんなにしつこくはなかったんだろうと思うが、あの空間に居たというだけで個人的に印象は悪めだ。


 教室に戻り、自分の席に座ろうとしたところで視線に気づいた。川口がずっと俺を凝視していた。俺の顔に何か付いているんだろうか。


「目ヤニなら取ったと思うんだけど」

「何の話をしてんの」

「いや、顔に何か付いてるから見てるのかなって」

「あっははははは! 颯君面白過ぎー! めっちゃ深読みするじゃん!」


 後ろの席のみどりが大声で腹を抱えて笑っていた。どうやらみどりのツボに刺さったらしい。思った以上に笑ってもらえたので、ちょっと上機嫌ではあるが、顔には出さない。


「よかったね。ボケが見事に刺さって」


 どうやら、高校生になっても俺は顔に出やすいようだ。ぐぬぬ。


「それで? 顔に付いてるわけじゃなきゃ他に別の話があるわけだ」

「そゆこと。みどりと休みの日にでも出かけないかって話してんだ」


「颯~。さっきのコミュニケーションのノートちょっと貸して……。って取り込み中だった?」

「いや、ただの雑談だから」

「目白翼君だよね。私、渋谷みどり! よろしくね」

「あたしは川口梓ね。よろしく」

「二人とも宜しく! 三人とも仲良しだよね」

「席が縦に並んでるからね。それに梓も颯君も話しやすいし!」

「俺も混ぜて~」


 このイケメン運動部、ナチュラルに混ざってきた。コミュ力がすごい。みどりもどうぞどうぞと自然に受け入れているし、これが高校生のコミュ力なのか……。


「じゃあ、翼君も出かけよっか!」

「いいね! どこ行く?」


 そこから二人で一気に盛り上がっていた。私は部活があるからちょっと予定が……。と言い出したらどこの部活か聞いて、誰が知り合いでと話していてガトリングとガトリングが撃ち合っているかのように一生会話のキャッチボールをしている。常陸と会話してもこんなにどんどこどんどこ話が進んではいないった。


 二人の爆速トークもゴールが見えたようだ。あっという間に予定が決まった。休日にみどりと翼の部活の時間が被るタイミングが直近であるらしく、そこに合わせて俺と川口も出てくる形で話が決まった。


「じゃあ、四人のチャットグループ作ろうよ。今後も絡んで欲しいし! 俺に連絡先教えて貰える?」

「了解~。じゃあ、私が交換するねー。そっから、梓と颯君誘ってグループ作れば連絡先も交換できるし」


 翼は元気にお礼を言いながら嬉しそうに笑っていた。どれだけ嬉しいかが顔によく出ていたので、川口とみどりと三人で目を合わせて思わず笑ってしまった。


 その後は何ということも無く放課後になる。川口に帰るか聞いたところ、みどりを待ってみどりと寄り道して帰るとのことだった。別に俺まで待つ必要はないので、先に帰ることにした。


「じゃあまた明日」

「ん。じゃあね」


 ここのところ、川口と帰ることが多かったこともあり、一人で帰るとなぞのぽっかり感がある。寂しいわけではないと思うけど。駅で電車を待つ間にぼーっと空を見ていた。今日は晴れ間が買った曇りだったが、夜に雨が降るんだろうか。日中の様子と変わりやや重たい雲り模様になっていた。


× × × × ×


 いつもよりたくさん話したから疲れたし早めに寝る。そう思いベッドに入ろうとする。そのタイミングでチャットアプリが音を鳴らした。


『たすけて』


 川口からのエマージェンシーコールだった。

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