第2話

「あの… いつまで抱いているんですか…?」

「ずっと抱いてたらダメなの?」

「はい、ちょっと困りますね。 一面識もないうちに…」

「うそ! 死んでも、また来てたじゃ!」


そのまま抱かれているのもあまり息が詰まっていたので、彼女の懐を抜け出してしまった。 彼女の言うこと。死んでもずっとまたやってきたという言葉は、たぶん僕が死んで復活してまたクエストに再挑戦した行動のようだった。


よもやと思ったが, 矢張りぼくの考えが当たったらしい

僕はエルクレンファンタジー、それも隠れクエストのボスである赤竜の空間に入ってきてしまったようだ。


彼女がどうして僕の顔を知っているのか。

いや、最初からどうやって僕を ここに召喚したのか。 未解決の問題が山のように積まれていた。


率直に言って困難だった。 僕が再び元の世界に戻ることはできない可能性も排除できない。 このことはすべて彼女だけが知っているはずだった。


「すみませんが、何か勘違いされたようですが… 僕をまた家に返してもらえますか…?」


僕は長くなるまでもなく、すぐに本論を話した。

そもそも僕はなぜこのような厄介な状況に直面しなければならないのかもしれない。


ゲームの中で僕がしたことは、ただずっと赤竜に飛びかかり、死んだだけだった。 まさにそれだけだった。 赤竜が僕を愛するようにするいかなるつながりも、事件もなかったのだから、きっと何か勘違いしたのだろう。


僕の質問を聞くと同時に彼女の表情がゆがみ始めた。


「なんで…?なんで帰ろうとする…?」


僕を胸に抱いてささやいた声とは相反する冷淡な口調。 彼女は彼女の瞳に氷がこもっているのではないかと錯覚するほど冷たい目つきをした。


「えーと………。」


彼女の厳しいまなざしに一瞬どぎまぎした。その目つきは同等な知性体を眺める目つきではなく、まるで一匹の餌を見下ろす捕食者の目だった。


今まで彼女はあまり脅かしてこなかったのでしばらく忘れていたが,考えてみると彼女はついさっきまで巨大な赤竜だった。


この目つきは非常に危険だ。 わたしの本能がそう判断していた。 率直に彼女がその気になればいつでも僕を害することができる。


彼女にとって僕の命はほんのはえ程度の命だろう。

それもそうなのが、僕はゲームの中でさえ彼女に勝ったことがなかったからだ。 一度も。


「帰れない… いや, 行かせない…!」


やべえ……! すごくやべえ!

わけもなく、後のことを考えて最後まで言えなかったのが逆効果を起こしたようだった。 赤竜は僕を後ろに押しのけて上に乗り、激しく僕の体を圧迫し始めた。


「ちょっと待ってください!言葉で解決します。 言葉で...!」

「絶対! 絶対 放さない!」

「分かったから。帰るって言わないから。 ひとまず落ち着いてください…!」

「約束…」

「わ、わかりました… 約束です…」


凍て付くような寒気

ここで死を免れるためには、このような雰囲気は急いで解決するのが得策だった。 僕はひとまず彼女に向かって落ち着けと指図した。


彼女は小さな体で僕に座り,細い腕で僕を押さえつけて圧迫した。しかし、彼女を振り払うことはできなかった。 彼女の押す力が僕の力より強力だったからだ。


家に帰るという話を二度としないという約束を彼女と何度もしてから、彼女は僕の体を押さえていた腕を解放した。


もちろん、それは真っ赤な嘘だった。 チャンスがあれば、そのまま素早く脱出するだろう。 この恐ろしい力を持った赤竜と一生共にするとは。


自分がいくら周りから余計な人間だと指されても、少なくとも自分にとってだけは自分の命がこの世で最も重要だった。


あの赤竜がくしゃみをしただけで人は死んでいくだろう。


そばにいたらすぐ死んでもおかしくなかった。


「そうですね。 まずはお互いに、公式声明でもしましょう。 僕は橋本龍平と申します。 そちらのお名前は?」

「橋本龍平……?」

「はい、それが僕の名前です。 では、そちらの名前を教えていただけますか?」

「名前……?」


本論から言って自分の命が二つでも足りない。

僕はかえって最初から一つ一つ解決してみる事にした。


彼女に良いイメージを作って僕を信頼するようにしなければならない。 そうしてこそ、機会を狙ってここを脱出できるから。


そのために僕は自己紹介を始めた。

彼女が隠している情報を自然に誘導し、脱出の鍵として使うつもりだった。


ところが、最初からどこかがこじれてしまった感じだった。


「名前知らないですか? だから、他の人たちが そっちを呼ぶ呼称だとか… あるんじゃないですか。」

「あ...!あるよ、名前。」

「覚えてくれてよかったですね、 おっしゃっていただけますか。」

「邪悪な魔竜とおぞましい怪物 そして万悪の根源…そして···。」

「いや、それくらいでいいです………。」


僕の手落ちだった

さっきから彼女の語彙力が少し足りないと感じていた。


それなのにまさか自分の名前まで知らないとは。


これはただの推測だが,彼女は怪物とか殺すという言葉の意味を理解していないようだった。それを自分の名前だと勘違いしているのをみるとだ。


それとも最初から名前が 存在しなかったのかもしれないし。 いずれにしても彼女の情報を知ることが難航しているに違いない。


何とかして早くここを抜け出したかった僕には、青天の霹靂のような声に違いなかった。


「名前がないと困るんだけど···」

「竜平がつけて、私の名前!」

「はい…? 僕がですか…?」


彼女はわたしの前に駆け寄ってきてきらめく目で頼んだ。


突然の頼みだったので,僕は途方に暮れてしばらく悩んだ。


いきなり僕に自分の名前をつけてくれなんて。

命名センスがハズレの僕としては、とても適当な名前が浮かばなかった。


でもここで断ったらすぐに恐ろしい状況になるに違いないのだから、僕はどうしても彼女の名前を思いつかなければならなかった。


ドラゴン…赤竜…赤いドラゴン…赤い…?

僕はできるだけ頭を絞った。


「じゃあ···歌いやすいように、「レッド」でいいですか?」


赤いってレッドだなんて。 幼稚園児も「笑える」レベルの命名だった。 自分の子犬にもこうやっていい加減に名前をつけてくれる人はいないだろう。


もっと恥ずかしいのは,あのレッドが心血を注いで思いついた名前だということだ。僕の無能な命名センスに耳までほてって、顔がほてった。


「レッド…!すごくいい! 竜平がつけてくれたから。 私の名前はこれからレッド!」

「お気に召したそうで、本当に幸いですね…」


彼女は飛び上がらんばかりに喜んだ

最初から僕が何の名前をつけてあげても、こんなに喜んだに違いない。


「竜平が言うのおかし!」

「どこがおかしいのか···?」

「以前使っていた話し方があるじゃない。 そっちの方が面白くて好き!」

「前に使った言葉と言えば…」


レッドは急に頬をふくらませて僕をにらみ始めた。 何か不満そうな顔をしていた。 僕の質問にレッドは無表情で答え始めた。


「ああ、今日もやって来たと。 俺様、人類の炎を胸に抱いた男 エンジェル·ザ·ジャスティス·オブ·龍平が。」

「ぅわあああ!やめて… お願いだからやめて!!!」


レッドはずけずけと口を開いた。その発言に僕はびっくりして叫んだ。 学生時代、両親にエッチな動画を見ている姿がばれたのと同様のレベルだった。


退屈すぎて一人でチャットしながらゲームをしたのが禍根だった。


僕の直接タイプしたのは確かだった。

しかし誰かが僕の前でそれらを読むということは、途方もない羞恥心を呼び起こした。


「へへ… 今のようにそのように言ったほうが良い!」


レッドは僕が驚愕しているのを見て満足げな表情をした。 おそらく敬語を使わずに平語を使ってほしいという話のようだった。


「分かった。分かったからどうかその話また出すな。 レッド···。」

「うん。もう抱いていい?」

「いや、それもちょっと自制してくれたら…」

「やだ! 竜平、好き… 一生抱いている!」


くらくらした頭をつかんで,僕はレッドに二度とその話を持ち出さないでほしいと切実に頼んだ。


するとレッドは待っていたかのように僕に近づいてきた。もちろん断ったが、これ以上僕の言うことを聞き入れないようだった。


レッドはまた僕を抱きしめた。レッドの表情はこの上なく嬉しい顔だ。 まるですべての宝物を得た親子の顔のように平穏で幸せな表情だった。


一体僕がレッドに何をしたからこうするの?

当然の疑問だった。 僕がしたのはドラゴンに3万回も殺されたことだけだった。 まさかそれが僕に執着する理由なら。


本当に想像もしたくないひどい状況だ。 それは僕を永遠に遊べるおもちゃと認識して僕に執着することではないか。


ゲームの中に入ってきたという仮定の下で、僕に無限な命は存在しない。 僕はただ能力のない普通の人間だ。


そのような理由からでも、最も仮定したくない状況だった。


確かに彼女が僕に執着する正確な理由が出るまでは僕のことをおもちゃと認識しないことを祈るだけだから。


そして、ここは本当にゲームの世界なのか。


僕はふと一つ疑問を疑った

もし、ここが本当にゲームの中だったら もしそれも存在しないか。 ゲームの根本となるそれが。


「ログアウト」


僕は内心考えた。

どうか…どうか!これが最後の希望だ。 僕をこの息詰まる空間から脱出させてくれる 最後の一筋の光は…


『ログアウト機能はご使用いただけません。』

[現在使用可能な機能のご案内]

▣ステータス

▣スキル : 洞察力 «Lv.5»


半透明のホログラムが僕の視界に現れた。 そして、それは僕の希望を砂の城を崩すように簡単に壊してしまった。 予想はしていたものの、それでも苦々しかった。


それでも脱出に役立つのではないかと思うので,僕は自分の使える機能を試すことにした。


【ステータス】

▣ 性別 : 男性

▣ 職業 : 戦士

▣ レベル : 30

▣ 能力値

力 - (45)、知能 - (80)、

敏捷 - (30) 、幸運 - (10)

▣ 特殊スキル

洞察力≪Lv.5»


これは、ゲームと変わった点がなかった。

隠れたクエストのために最適に作られたキャラクターの能力値だった。 もちろんこの能力値を持ってもクリアできなかったがね。


ちなみに僕の特殊スキルである洞察力は、そのレベルが上がるほど相手の全ての情報と弱点、そして現状まで知ることができたので、適切に使えばこれほど優れたスキルもなかった。


スキルを使ってみようか?

僕は目の前のレッドを見つめながら考えた。 ゲームの中でレッドに向けて何度も試みたが、一度もスキルが成功したことはなかった。


そのため、半分あきらめた状態でレッドに向かって洞察力を実行し始めた。


「やっぱりダメか………え?」


確かに一度の閲覧さえ許さなかったレッドの情報ウィンドウが浮かび上がってきた。 そうして僕は脳を強打した強い衝撃で、固く凍りついた。


【 洞察力 : 「レッド」 】


▣ 個体名 : 「レッド」

▣ 種族名 : ドラゴン

▣ 戦闘力 : 計測不可

▣ 好感度 : [999+]

▣ 性向 : 執着、依存


▣ 総合所見

: 個体名「レッド」の戦闘力は通常の生命体の限界を超えました。 これは他の追従を許しません!

戦闘状況突入時、あなたが勝利する確率は限りなく0に近いです。


何があっても、絶対に喧嘩を回避することをお勧めします!


しかし個体名「レッド」はあなたをとても愛しています。 しかし、そんな! その感情は通常の愛の範疇をはるかに越えました! レッドは、あなたをものにするためなら、何でも辞さないつもりです!


TIP. あなたが生存する唯一の方法は彼女に逆らわず、最大限に抵抗しないことです。


「あ……。」

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隠されたクエストを到底クリアできなかったので諦めようとしたのですが、いきなりゲームの中の赤竜が僕に執着してくるのはどうしてですか? 赤み @a432218

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