【 エピローグ: この恋の終わらせ方 】


「帰って……、もう、帰って……。奥さんのところに……。子供さんのところに……」


「美沙……」


 先輩は、私の方を振り向いた。

 私は涙を堪えきれず、ポロポロと零した。

 そして、健太郎先輩のところまで走っていき、背中を押して玄関の方へ押しやる。

 扉を開けて、外へと先輩を押し出してゆく。


 外は土砂降りの雨。

 強く振る天からの雨の中を更に、先輩の背中を押してゆく。


「もう……、もう、二度と私の前に現れないで!!」


 私は零れる涙も拭かず、彼の靴と鞄をぶつけるように投げる。


「20年間……、20年間先輩しか見て来なかった……。でも、ずっと探してた……。本当の恋を……」


 降りしきる雨の中で、ずぶ濡れになりながら、先輩に別れを告げた。

 私はその場に膝をつき、地面の泥を両手で握り締めながら、項垂うなだれる。

 長い髪が冷たい雨で濡れ、私の瞳から零れ落ちる温かい涙と混ざり合い、地面へと流れてゆく。


 先輩の走り去る足音が、どんどん遠くなっていった。


 代わりに、私の後ろから、傘を持った海斗くんが私の側まで来て、しゃがみ込む。そして、私の体を守るように、背中にやさしく触れた。

 体に落ちて来ていた激しい雨が、傘の上で弾かれ激しい雨音に変わる。



 その時、一瞬強い風が吹いた。



 すると、海斗くんの持っている傘が、夜空へと舞い上がり、どこか遠くへと飛んでゆく。


 それと同時に、海斗くんが泣いて震えていた私の体を強く抱き締めた。

 その力強さに、彼の気持ちを感じられたんだ。


 私も彼の大きな胸に顔を埋めて、両手をゆっくりと背中へ回し、ぎゅっと力強く彼の服を握った。



 20年間長かったけど……、


 やっと見つけた。


 ずっと探していたもの。




 あんなに小さかったかわいい生徒が教えてくれた。




 この悲しい恋の終わらせ方を……。





(了)



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