【 彼と彼 】


 しばらくの沈黙が、とても長い時間のように感じた。


「また、いつでもおいで。ご飯一人分作るのも、二人分作るのも同じだから……」

「はい、またお邪魔します」


 そう言う彼の若々しいアヒル口の笑顔が、今の私にはとても眩し過ぎた……。



 ――それから、海斗くんは私の言葉を素直に受け取り、毎日のように私の部屋を訪ねて来てくれるようになった。

 海斗くんと一緒に作る料理も、息ピッタリになるほど毎日。


 海斗くんは、私に彼氏がいることも理解している。

 その彼氏が私に数ヶ月会いに来ないことも、もう20年近く付き合っていることもいつの間にか話していた。


 それでも、私を慕って「美沙先生」と言って、笑顔を見せながら、今日あった大学での話しをしてくれる。

 私は、何年ぶりにこんなに大きく笑ったんだろう……。



 でも――。


 3ヵ月後、健太郎先輩が来る日、初めて海斗くんに今日は会えないことを伝えた。


 健太郎先輩は、今日も時間がないと言ってすぐに私をベッドに押し倒した。


「きゃっ! 先輩、今日は話がしたいの……」

「俺には時間がないんだ。話は、後でメールしてくれ」


 先輩は、シャツのボタンを外しながら、聞く耳を持ってくれない。


「大事な話なの……」

「大事な話? どうせ、また子供とかの話だろ? もうその話はうんざりだ!」


 その瞬間、窓の外からすごい閃光せんこうが部屋の中へと入ってきた。そして、遅れて低くお腹に響き渡る音がする。


『ゴロゴロゴロ……、ビシャーンッ!!』


 大きな雷が鳴り、土砂降りの雨が降って来た……。


『ザァーーーーッ……』



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