【 ふたりの距離 】


「ねぇ、海斗くん。海斗くんは、もう甘口より辛口の方がいいよね?」

「はい、小学校の林間学校の時に作ったカレーよりかは、辛口寄りの方がいいですね」


 彼は、まな板の上で、ニンジンを大胆に乱切りしながらそう言う。


「あの時のカレーは、超甘口だったもんね」

「そうですね。それでも、あの時は何でも美味しかったです」


「じゃあ、辛口のルーも混ぜよっか?」

「いいですね。僕も少し大人になりましたから」


 彼の爽やかな笑顔が、私にはとても眩しく見えた。

 ダークブラウンの短い髪に、薄い透き通るような同じブラウン系の瞳。

 そして、白くキメの細かいツルンとした肌に、特徴的なアヒル口の笑顔。


 何だろう。さっきまでの気持ちとは違う。


『ジュ~ッ』


 少し贅沢に、牛肉を大きめにカットして初めに焼く。

 とてもいい匂いがする。


 彼に「一つこの肉、つまんでみる?」と聞くと、彼はとても嬉しそうに「はい!」と答える。


「うん、美味しいです。この肉」


 そう言って、頬を膨らませながら、私のすぐ隣で満面の笑みを見せてくれる。

 いつの間にか、肩と肩が触れ合いそうな距離まで昔のように、近づいていることに気付いた。



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