【 探しもの 】


 彼のいない静まり返った部屋の中。耳の奥からキーンという音が聞こえてくる。


 私はベッドから出ると、洋服を着替えて、今日の夕食の材料を買うためにアパートを出る。


 近くの小さなスーパーで、手にいっぱいの食材を買い込み、また自分のアパートへ戻る。

 私が部屋の鍵を開けるために、買い込んだ食材を下へ降ろし、鍵をポケットから出そうとしたがなぜか見つからない。


「あれっ? 鍵がない……、何で……?」


 私は前と後ろのポケットの中、鞄の中を探したが、やはりない。


「あれっ? 何で鍵がないんだろう……。これじゃあ、部屋に入れないじゃない……」


 私が必死に鞄の中の物を全て出し、鍵を探していると、隣の部屋の扉が開いた。


『キィ~ッ』


 その隣の部屋から出てきたのは、10代後半くらいの私よりも明らかに年下の若い男性だった。


 私が気まずそうに小さく会釈をすると、彼は私の顔を見て、何やら驚いた様子を見せている。


「あ、あの……、探しものは、これですよね……?」


 そう言う彼の手には、私の部屋の鍵が握られていた。

 特徴的なネコのキーホルダーの付いた私の鍵。


「あっ、その鍵、私の部屋の鍵です……。すみません、どこにありました? その鍵」

「僕の部屋の前に。今日、僕引っ越してきたばかりなんですけど、さっき隣から出て行かれた音がしたから、多分、こちらの部屋の鍵かと思って……」


 その青年は、私が落とした鍵を、私の帰りを待って持っていてくれたようだ。


「あ、ありがとうございます。その鍵を今、探していました……」


 彼は部屋の鍵を私に渡すと、こんなことを聞いてきた。


「あの、失礼ですが、美沙みさ先生ですよね……?」

「えっ?」


 その青年は、私の名前をなぜか知っていた……。



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