【 ふたりの子供 】


「もう帰るの……?」

「ああ、明日朝早くから顧客と打ち合わせが入っているから」


 ベッドから起き上がり彼が、寝ている私に背を向けて服を着ている。


「あ、あの……、私、子供だけでも先に欲しくて……」

「子供?」


 ボタンを留めている彼の手が一瞬止まり、背中越しに顔だけこちらを少し向く。


「う、うん……。結婚は後でもいいけど、子供は私が産めなくなっちゃう年齢に近づいているし……。ダメかな……?」

「美沙は、子供のために俺と付き合っているのか?」


 彼が少し語気を強めた。


「あっ、そういう訳じゃないんだけど……。そろそろ子供が欲しいな~って……」

「今は、それどころじゃないんだ。もっと、俺のことも考えてくれないか」


 それ以上、何も言えなかった。

 何かを言えば、全てが崩れ去りそうだったから……。

 それが恐かったんだ……。


「今度会えるのは、3ヶ月後になるかもしれない」


 そう言って彼は、今日もアパートの玄関の扉を開けて出て行く。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る