幼女神が俺を生き返らせて余命宣告したお陰で世界が滅びました。

黒猫虎

短編



       1



「ここは……いったい?」


 ふと気づいたら、妙な白い空間に俺はいた。

 足元がフワフワとしていて、俺は立っていられず、座り込もうとした。


 ……いや、地面が無かった。

 俺は浮いていた。


 ここは、雲の上なのだろうか。

 それとも、俺は夢を見ているのだろうか。


 それとも……死んだのか?



「それ正解」

「うわっ」



 急に頭上から声を掛けられた俺は、腰を抜かして地面に倒れこんだつもりが、後方宙返りをしてしまった。

 そして、後方宙返りが止まらず、4回転目を終えたとき、声の主に止めてもらった。


 声の主を確認すると、神々しく輝く美幼女がいた。



「あなたは……もしかして、神様?」

「いかにも」


 美幼女はコクリと頷いた。



「なんと、神様が美幼女だとは……ライトノベルが真実だったとは……」


 俺は、ある種の感動に心が震えるの感じた。



「ワシがこの姿なのには理由がある。お主の生きてきた国、日本国のライトノベル読者の信心により生み出されたのがワシ、幼女神リリリよ」

「なななんと。日本のオタク(俺含む)すげぇ。幼女神リリリ……。素晴らしい御名ですね」


 俺はおべっかを言った――これも心読まれちゃいます?



「もちろん。読まれちゃうよ。ワシ心読めちゃうから」

「なんと……ひどす……」


 俺は絶望した……。

 が、ポジティブに考えるなら、テレパシーごっこが出来るという事ですよね、幼女神様?


「そこは、ワシに対する礼儀として、口に出して話すが良い。お主たち人間の心は雑音がヒドいからな」

「はい……」



 この美幼女、毒舌である。



「聞こえとるぞ」





       2



 幼女神の説明によると、俺は1度死んだということだ。

 しかし、世界を救った特典に俺が『やり直し』を望んだ為、死ぬ丁度1年前に時間を巻き戻してもらった。


 時間を巻き戻してもらったはいいのだが、俺の余命1年というのは変更できないという。

 この条件は以前の俺にもちゃんと伝えられたが、俺はそれでいいと条件を呑んだらしい――。



「余命1年、というのはなんとかならないのですか?」

「すまぬ、寿命というのは、神でもどうにもならないものなのだ」

「そうなのですか……時間は巻き戻せるというのに。残念です」



 俺は、あっさりと諦めた。

 どちらかというと、俺は諦めが良い方だ。



「ちなみに、俺はなんで1年後に死ぬんでしょう? 病気でしょうか?」

「うむ。死因は言えない事になっている」


「なんと。神様。そんないけずな。誰にも言いませんから」

「すまぬが言えぬ。この会話も『上』に聞かれているからな」


「なんと……」



 幼女神リリリ様より上がいると。

 リリリ様、なんて役にたたない……おっとっと。

 生き返らせてくれただけ、ありがたいと思おう。



「うむ。その心がけ、殊勝しゅしょうであるぞ」





       3



 こうして、俺は死ぬ1年前に生き返った。


 生き返ってみると、俺は高校2年生の男子だった。

 そして、記憶も戻ってきた。


 ……そうそう、俺ってこんな人間だったな。


 記憶が戻ってくると、逆に生き返ったという実感が薄くなっていく。

 が、考えてみれば、それは自然な事だった。


 だって、記憶が1年前そのままなのだから、ただ変な夢を見せられただけという気分になる。



 ただ、夢でない証拠が俺の手のひらにある。

 俺の手のひらに刻まれた『365』という数字がそれだ。


 この数字は、俺にしか見えない。

 毎日1ずつ減っていくこの数字を見ながら、残りの余生を大事に過ごせという幼女神リリリの思いやりだ。


 悪趣味としか思えないが……。



 さて、残り1年の命か。

 どう過ごすべきか。

 何か有意義な事をしなくては……。







 よくよく考えた結果。


 俺は、この世界を滅ぼすことにした。





       4



 なぜ世界を滅ぼすか――って?

 だって、俺が1年後に死ぬ世界なんて、許せないでしょ?



 ……えっ?

 自分が救った世界なのにどうして、って?


 ていうか、救った記憶がないし。

 俺って『世界を救う』ってキャラじゃないし。

 世界を救った実感も記憶も無いんじゃ愛着ないし。

 むしろ、暗い気持ちしかいてこない。




 うーん、もしかして1度死んだ事で、性格が変わったのかなぁ。




 それはさておき。

 世界を滅ぼす方法はどうしよう。



 俺は飯も食べずに、不眠不休で三日三晩考え抜いた。



 そして思い付く。



 皆に『生きる事が嫌になる様な絶望的な考えを吹き込む』というアイデアを。



 この場合、『世界が滅びる』というよりかは『人類が滅ぶ』という事になるが、それでもいいだろう。



 次に考えることは……『生きる事が嫌になる様な絶望的な考え』自体か。



 ……よし、思いついたぞ。



 そう、俺ってこういうマイナス方向の事を考えるのが得意な人間でした。



 てへぺろ。





       5



 試しに、俺の数少ない友人の1人、友人Aにその『考え』を話してみる。


 話の効果は覿面てきめんだった。

 友人Aは顔色を真っ青にして、翌日から学校に来なくなった。


 そして一週間後に自ら命を絶ったと知らせが入った。

 亡くなった日は正確には、5日後だったらしい。



 それから同じ学校の生徒で友人BとCに試したら2人とも亡くなった。


 Bは同じ5日後、Cは4日後だ。


 友人はもう後1人しか残ってないぞ。



 俺は確信する。


「これは世界を滅ぼすに足る」と……。





 ただ、もう1ピース足りない気がする。

 この方法だと、残り1年じゃ足りないな。



 ――そうだ!

『自らの命を絶つ前に、この考えを自分の近くにいる2人に話させる』様に話をプログラムし直すか!



 次の友人D(4人目、最後の友人)に考えを吹き込んで――。


 友人Dが2人に考えを吹き込んで、そして、2人が次の4人に考えを吹き込んで、それを無限に繰り返して――。


 そしたら、33回目には累計85億人を超えるから……。


 地球の人口は現在約75億程度だから、これでOKオケ


 そして、俺が生き返ってから、もう15日が経過しているから――。


 自ら命を絶つまで個人差があるけど、大体5日として……


 ざくっと38日後。

 俺が生き返った日から数えるなら、53日目。

 

 53日目に世界の人口を0に出来る計算だ。



 よし、楽しくなってきたぞ!


 後は、この考えを世界に蔓延させるだけ――――。





       6



 世界は俺が考えていたよりも、5日早い48日目には終わってしまった。

 学級閉鎖や学校閉鎖等の手が打たれたが、まったく間に合わなかった。

 マスコミやSNSを活用する『亜種』により、日本中どころか、あっという間に世界の隅々まで爆発的に広まったからだ。




 俺は、ひとり暗い部屋で、つぶやいた。


「ミッションコンプリート」





       7



 前回の俺も『生きる事が嫌になる様な絶望的な考え』や人類を滅亡させる方法を思い付いてしまったらしい。

 その時は、余りに危険な考えだったので、苦悩と葛藤の末、自ら命を絶つことで結果的に世界を救ったのだという。


 世界を救った者に神は特典を与えないといけないルールが、実は存在しているそうだ。

 それで幼女神は俺に特典を与えなくてはならず、俺は復活を望んだ。



 今回の俺は前回の俺とは異なり、苦悩と葛藤なんてなく、逆に積極的に世界を滅ぼす為に『方法』『考え』を再び思いつく。


 そして、その『方法』『考え』を実行してしまった――――。



 幼女神は自らを信仰する日本のオタク達が死に絶えた事で、消滅しそうになっている。



 ――泣きわめきながら俺に殴りかかってくる幼女神によると、そういうことらしい。

 幼女神、ワロス。w



 幼女神は、また時間を巻き戻そうとしているが、前回の人生で自ら命を絶っている俺は、己の命を1年後に絶つ運命からは逃れられない。

 それは、神の力を持ってしても不可能なのだそうだ。


 なぜなら、俺は『1度は世界を救った男』――世界から守られているらしい。



 つまり、俺は1年後までは無敵なのだ。


 幼女神は、毎日俺に文句を言ってくるが、かなり存在感が希薄になってきている。

 あと二日は持たないだろう。




 つまり、世界はジ・エンド。


 そういうことだ。





 俺は世界を救った、かつての自分に勝利した。


 いや、かつての自分もこうなる事を分かっていた筈だ。


 なのにどうして……。




 それにしても、自分が救った世界を終わらせるなんて、な。





 1粒で2度美味しいとは、こういう事をいうのかな。






 いや、違うか。







 ある種の達成感を感じ、ニンマリさせた俺の頬を、何故か一筋の涙が走った。







 ~THE END~






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幼女神が俺を生き返らせて余命宣告したお陰で世界が滅びました。 黒猫虎 @kuronfkoha

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