5.悔恨

 気が付けば私は病院のベッドの上にいた。初めは保健室のベッド位だと思っていたのに。側には泣いている母の姿。手にギプスの包帯が巻かれていた。私の決死の行動は成功したらしい。思う存分、横になって何も話したくなかった。でも長い時間が過ぎた後、母から問い詰められた時、私はまた絶体絶命の気分になった。


「なんであんな所から落ちたの? なんであんな場所にいたの?」


 私は布団を被り、何も言葉を発さなかった。そして母はさらに私を追い込んだ。


「一緒にいた子に何かされたの?」


 それに頷いたつもりはなかった。でも結局、否定していなかったのだと思う。自分は負け犬だった。自分から落ちたとは、絶対に言えなかったから。いつの間にか、まりかのせいで私はそこから落ちた事になっていた。

 一つ、ついた嘘はそれだけで済むだろうか。そんな筈はない。まりかが私を非常階段から突き落としたという話は、あっという間に学校で広まり、まるで、まりかが私に意地悪していたかのようになった事を後に知った。

 そんな噂を完全に否定しなかった自分は卑怯だと責められても仕方がない。もし全てを否定するなら、私は自ら大怪我をするよう仕組んだ事を自白しなくてはならなかった。いや、もし、自分が自白しなくてもあの子が言う筈だったから。あの子、まりかだけは真実を知っている。

 でもまりかが真実を話したら私はどのようになるだろう。ここまで来ても私は、自分の名誉を考えていた。最低な人間。それでもいつか真実を告白しないと……という気持ちは常にありながらベッドの上で何もできない日が続いた。

 そして卒業式の前日も私はまだ、骨折した腕や挫いた足のリハビリのため、病院に入院したままだった。その日、カズミと沙織がお見舞いにやって来た。そして彼女達から聞いた情報で里口まりかが突然、中学校を転校していった事を知った。

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