4.転落

 眠れなかった夜が過ぎて行き、いよいよ翌日が聖クローディアの入学試験という二月のある日、私は自分が急病になる事を強く願っていた。でも不眠からくるフラフラした感じはあってもそんな急な発病が起こる筈もなく……。いつしか私は中学校の非常階段の二階から三階に向かう初めの踊り場に立っていた。各階の間には二つずつ踊り場があったのだ。


――ここから下の植え込みに落ちたら、怪我をして明日の入学試験には行かなくて済むかもしれない――


 数日間ほとんど眠れていないため、足も頭も本当にフラフラしていた。でももう躊躇していられないと感じていた。

 その時、カンカンという軽快な足音とともにあの子が現れた。まりかだ。

 それから先の事は、まるで観客になったような、自分が別な場所にいるような記憶しかない。手摺を越えて飛び降りようとしている私に気付いたまりかの悲鳴と止めようとする丸々とした温かい手。顔に当たる鉄の錆びたような匂い。頭の血が逆流していく瞬間、そして全身の痛み。時間が過ぎ、四方から聞こえる悲鳴と気遣う声。

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