3.窮地

 私はその冬、追い詰められていた。親に聖クローディア学院高等部への進学を勧められていた。でもそこに私が合格できる確率は、千に1つもない事を私は知っていた。聖クローディア学院は本当に賢い、優秀な生徒の行く学校で、私にはたとえ奇跡が起こったとしても無理だという事を。いや、たとえ奇跡が起きて入れたとしても、優秀な子の揃った学校での高校生活は、どんな悲惨なものになるか、想像がつく。


 それでも父も母も私がそこに行かないと格好がつかないと言う。なぜなら将来、私は医学部に行くか、医師の国家資格を持つ誰かと結婚する事になるか、どちらかだから。


 そんな冬のある日、私は二階の廊下の突き当たりにある小部屋のクローゼットに、クラスメートに貸す鞄を探しに行った。私はその頃よく自分の持ち物を、気前よく友人達に貸していたから。

 その帰り、何気なく通った父の書斎の前の廊下で、父母が深刻そうな様子で話す声が聞こえてきた。


「この間の試験の結果では到底……」という母の抑えた声に、「あの子が聖クローディアに合格させてもらえるように、学長には頼んであるから心配するな」という父の声。そして母の「こんな事までしないといけない?」という悲痛な声も。

 私は思わず持っていた鞄を手から落としそうになった。

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