1.努力

 事の発端は子どもの頃に遡る。私は確かに裕福な家の娘で、贅沢な環境で育てられてきた。でも、だからといって努力してこなかったわけではない。いや、人一倍努力してきた。完ぺきな美少女、眉目秀麗な少女であるために。皆から注目され、憧れられる存在であるために。両親は私がそうある事を望んでやまなかったように。そしてそれはある程度、成功していた。クラスの皆から憧れられていたと思う。

 ただし天賦の美しさや才能には勝てない事も知っていた。例えば優美子ちゃん。祖母が小町と言われた舞台女優だっただけあり、いくらお転婆で、安物の普段着で駆け回っていても、美しさが溢れていた。それから梨華ちゃん。塾に行かなくてもクラスで一番成績が良くて、明朗で、作文も上手だった。

 私は違う。うんと努力して、朝早く起きて髪と睫毛をカールさせ、可愛さを保つ事ができた。家庭教師と個別塾とで猛勉強して、やっとクラスで五番以内に入れるくらい。それでも平和で幸せな学校生活だった。私は美しさも成績も二位、三位だったらいいと思っていた。悲しいけど、天賦のものには勝てないという事実を子どもながらに知っていたから。そんな自分に満足をする事を覚え、陰で努力しながら優等生の女の子であり続けた。

今にして思うと平和な日々だった。あの日、一人の転校生が現れるまでは。

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