▄︻┻┳═一   八発目     ≫【微雨】

 翌朝、目覚めた私は灰色の部屋を見渡す。洗面台へ行き、目覚ましついでに歯を磨いた。そしてスマホの電源をつけて時刻を確認すると身支度を始めた。無機質な空間に響くのは人の動きだけ。BGMなどとうの昔からない。

 寝起きの体から肌着を脱いで、スポーツブラをつける。ちょっときついな、また新しいのを買わないといけないのか。まったく七面倒くさい体だ。

 そして体にピッチリと張りつくアンダーを上下に着て短パンとシャツ、パーカーを用意したら準備完了。ランニングウェアに身を包んで持ち物を確認する。

 スマホ、財布、カードキー。忘れ物がないことを確認するとキッチンでコップ一杯の水を飲む。そして髪を束ねてポニーテールにする。

 玄関でランニングシューズを履いて、帽子を深くかぶりワイヤレスイヤホンをふところから取り出す。そしてランダムに曲を流す。タイトルは“innocent”。


 今日は何曜日だろうか、この街は毎日人が行き交うためそんなことすら忘れてしまう。信号を渡り、坂を登って老舗しにせのカフェを通り過ぎる。街から少し離れた場所までくると景色が変わる。蒼空そうくうは清々しく、陽の照りつけが体に汗をかかせる。

 川が見え、橋を渡る。反対側の岸を走っていた私はふと足を止める。そこには一本の木があった。満開とはいわないが見事に咲いた桜の木だ。季節外れな景色は写真家ならエモーショナルな写真を撮るんだろうな。でも哀愁あいしゅうじみたその感情は写真では表せない。

 花びらは風に吹かれ川に落ちて、ゆっくりと運ばれていく。それはまるで自分の居場所を仲間に伝えるように。みきに触れてそっとつぶやいた。

「あなたもなのね」

 音楽の音量をあげてまた走り出した。



——東京某パブ

「猿飛君、私がいっぱい楽しませてあげるわ。ほらもっとこっちきてよ」

「今日もあの女こねえ。くっそ! なんで潰れちまったんだよ俺」

「ねぇそんなことよりお姉さんと……」

「俺は諦めねぇからな!! 待ってろよマイハニィィィ!!」



「……クシュン」

「リリィ様、大丈夫ですか?」

「急に悪寒おかんが……」

 マスターはコップを用意しながら「まだ春ですからね」と感想をいった。定位置のカウンター席で変わりなく飲み物を待つ。私はマスターの手をぼんやりと眺めていた。

「お待たせしました。ホットレモネードでございます。お熱いのでお気をつけくださいませ」

 取っ手がついた陶器とうきのコップからは湯気が出ていた。右手は取っ手を掴んで、左手はパーカーの袖で半分覆って優しく持ちあげた。

 鼻を近づけてみるとレモネードの甘さの中にほのかに香る生姜しょうがのスパイシーさがあった。

 火傷やけどしないように息を吹きかけて冷ます。レモネードを驚かせないようにゆっくり唇を重ねて、熱くないことを確かめてから口に含む。鼻を吹き抜けるような生姜のからさ、舌に絡まるレモネードの温かみが絶妙に合わさっている。

 口で堪能して飲み込むとお腹の中心からぽかぽかと温まるのを感じた。

「いかがでしょうか」

「まあまあ」

 温かい飲み物を飲んでいるせいか、今日はバーにいるというより祖母の家にでもいるみたいだ。それはあくまで私の想像なんだけど。

 ボーンと鈍く響いた時計を見ると午前零時を指していた。やっとここから始まる気がする。日中なんてただ機械のように過ごすだけ。夜になれば私の目にも血が宿る。

「ところで、先日の依頼は順調ですか?」

「ああ、偵察も情報収集もあらかた終わったし、あとは忍び込むだけ」

 レコードから流れる曲は普段よりポップ調で、心なしかマスターの動きも弾んでいるように見える。なにかいいことでもあったのだろうか。

 指でトントンとリズムを取りレコードに耳を傾ける。そうしているうちにレコードは終わってしまいジーッと砂の音を流している。

 レコードも流れない店内に男と女、絵具でベタ塗りしたように表情も動作も見えない。

「こんな七面倒くさい仕事さっさと終わらせる」

 それはだれに聞いてほしいわけでもなく、余裕でもターゲットを軽視しているわけでもない。ただ口を心に任せただけだった。マスターは聞いていたのか知らないがいつにもまして鬼灯ほおずきな笑みをこぼしている。

 しばらくの静寂ののちにレコードに針が置かれた。止まっていた時間が動き出すように私は背伸びをした。

「お疲れのようですね」

「まあね」

 ホットレモネードを飲み切りコップに手を当てる。ほんのり温かくてそこらへんの人間なんかより人間味を感じる。マスターが「おかわりはいかがですか」と聞いてきたので「もう少し」と返事をする。

 チックタックと鼓動する時計に耳をすませ、レコードの音をベースラインにする。コップの温かみは漸減ぜんげんして、気がつけばもう元のコップに戻っていた。名残惜しそうに軽くコップの縁に触れてマスターに渡す。ポットを手に取って空いたコップにホットレモネードを注ぎ込む。

「ねぇマスター、ちょっといい」

「なんでございましょう」

 マスターは注ぎ終わったコップを私の目の前に置いた。

「諜報がうまくいかないんだ。ターゲットが決まっているならやりようはあるのに、無作為の中から探し出すのは骨が折れる」


 シティにきて初めて弱音を吐いた。そしてそれを相談という形で口に出したのも初めてだ。


 マスターはいつものようにグラスを拭きながらゆっくりと口を開く。

「懐かしいですなぁ。ほかの方々もそんなことをおっしゃってました」

 遠い空の向こうを眺めるように佇んでいる。グラスを拭き終わるとそれをカウンターに置いた。なにも注がれていないソーサー型のシャンパングラスはそこに置いてあるだけでさまになっていた。

 そしてシャンパンを持って栓を開けた。

「シャンパン・カクテルというのは文字どおりシャンパンをベースにしたカクテルでございます。こちらは角砂糖、こちらのボトルはアンゴスチュラ・ビターズです」

 手のひらを見せながらそれぞれの説明をした。グラスにゆっくりっと注がれたシャンパンは照明できらびやかになっている。

 そして角砂糖にアンドラスチュラ・ビターズを振りかけるとそのままグラスの中にポトンと落とした。

「このカクテルは角砂糖が泡を出しながら溶けていく様子を楽しむことができます」

「うん、確かに綺麗」

 そのカクテルの美しさに目を奪われる。色や匂いに変化はないが角砂糖の角が取れてゆっくりとしぼんでいく。ふつふつと上にあがる気泡が角砂糖の一部みたいで、それは流星のようにひたすらグラスの底を目指していた。

 続いて、カクテルの隣にまったく同じグラスを置き、同じシャンパンを注いだ。

「シャンパンに角砂糖が溶け切ってしまえば見た目や匂いでは判別つきません。しかしひと口飲めば味に違いが出ます。これが“溶け込む”ということです」

「つまりどういうこと」

 ふたつのグラスを交互に見て首を傾げる。マスターは角砂糖入りのグラスを手に取り口をつけた。

「カクテルに聞いてみるのです。そうすればそのカクテルにしか知り得ないことがわかります。人はこれを“違和感”とよぶのです」

 比喩じみた説明は危うく相談した内容を忘れてしまうほど回りくどかった。

 マスターはもう一度グラスに口をつけてそのまま飲み干した。そしてそれ以降なにかを説明することはなくグラスを洗い始めた。

 放置された私はマスターの言葉を反芻はんすうする。何度も心の中でその意味を抽出ちゅうしゅつするように噛み砕いた。

 カクテル。

 シャンパン。

 角砂糖。


「そういうことね」

 

 マスターが後ろを向いている隙にカウンターに残ったシャンパンをそーっと取ろうと手を伸ばした。別に一杯くらい飲んだって……。

「いけませんよ」

 マスターは後ろを向いたまま私を静止させてきた。私はため息をついて頬杖をつき、キラキラと輝くシャンパンを欲の目で眺めていた。

「この短時間でご理解できたのはさすがリリィ様といったところでしょうか。ルーファ様にいたっては口をポカンと開けていましたから」

「だからあいつは“へちま”なんだよ」

 片付けられるシャンパンを名残惜しくみ見つめる。シャンパンの代わりといっていつもの冷たいレモネードを出された。

 毎回変わる可愛げなストローを口に咥えてズズっと吸いあげた。まだ少し寒いとはいえ、この冷たさは落ち着く。


“ボーンボーン”

 時計は二時を指していた。

 私はレモネードを飲み切って席を立った。

「今日は早いですね」

「まあね」

 帰り支度をする私を見てマスターも閉店の準備をする。今日はもうだれもこないのだろう。

 フードを深くかぶって店のドアに手をかける。カランカランとドアチャイムがなって外の冷気が一気に入ってくる。マスターは出入り口まで私を見送りにきた。

「いってらっしゃいませ」

 ポケットに手を入れて、春の残冷ざんれいをしのぐように闇に消えていった。

 そして“close”と書かれた札がカルミアのドアにぶらさがった。


  * * *


「閉まってるだと! おいおいなんでだよ〜」

 “close”と書かれた札を見て落胆する男がいた。月曜の朝から騒がしくも明るい雰囲気に昨日のサザエさん症候群もどこかいってしまった。

「臨時休業なんだ。それならしょうがないね」

 学校の近くにある自家製のパン屋で、その大きさと安さが学生に人気だった。この男、笹原は生粋のヘビーユーザーで、おそらく高校生活のほぼすべての昼食をここのパンにしているだろう。

 開くことないお店のドアにへばりついてうなだれている笹原。道ゆく人々が彼を冷たい目線を送っていた。一緒にいる俺まで恥ずかしくなってきて、とっさに「コンビニ行こう」といった。笹原の制服についた砂埃を落としてコンビニに向かう。

 

 店内は春のキャンペーンをしているらしく、特にパンが安くなっていたり、集めて応募するためのシールがついていたりと、ここも負けず劣らず賑わっていた。

「いやーお腹空いたなぁってあれ? 空と……だれだっけ?」

「ししし、島塚さん!?」

「すみれおはよう、朝練お疲れさま」

 朝練終わりのすみれがコンビニにやってきた。更衣室で着替えてはいるが、髪の毛が少し濡れている。

 さっきまで落ち込んでいた笹原はすみれの姿を見て元気を取り戻したらしく、かえって動揺するほど騒がしかった。起伏が激しいというか、感性が豊かというか。すみれはそんな様子に頭をコクリとかしげた。

「まあ気にしないで」

 俺とすみれは菓子パンやお菓子を手に取って会計を済ませた。いつも食べているお菓子はここで買っていたいたのか。身に覚えのある商品が袋に入ってる。

 笹原を置いてすみれとそのまま学校へ向かった。

「島塚さん、おお、おは、おはようござ……ってあれ、お前ら置いて行くなよ!」


 今日の教室は少しざわついていた。それは木の葉が風に吹かれて擦れ合うように葉から葉へ伝染するような勢いだった。

 風が吹くところにいない俺はなんとなく傍観するだけにとどまり、その原因やら噂やらは興味がなかった。俺はただ日常を過ごしたいだけ。みんなが笑って泣いて、卒業のときに軽く思い出に浸れればそれでいい。

 担任が入ってきて日直が号令する。義務教育のころから幾度となく繰り返されたその行動は無意識で、その声ひとつで勝手に体が動き出す。

「えーっと。今日は欠席者はいないはずだけど、もしかして遅刻かな」

 教室が少しざわついて辺りを見渡す人が数名いた。その中に俺も含まれていた。


“ガラガラ”


「おっと、思ってたより早かったね」

 後ろのドアが開かれだれかが入ってくる。その音に反応して教室のざわつきがしずまり、一斉に視線を一箇所に集めた。

「あれ、上靴はどうしたの?」

「すみません、忘れました」

 その音の主は里中さんだった。

「じゃあ明日忘れないようにね」

 スリッパのかかとの部分をパタパタと床に当てながら自分の席に向かう。その音はるいに稀に見る滑稽こっけいな音だった。里中さんの可憐な姿と学校の使い古されたボロボロのスリッパが釣りあわず、印象のすべてがスリッパに持っていかれる、そんな感覚だった。

 里中さんが席に着いたあともちらほらと話し声が聞こえた。

 ヒソヒソ。

 コソコソ。

 不愉快な笑い声が本人に聞こえているかわからない。里中さんはいつもと同じように淡々と授業の準備をしていた。その光景はまるで咲き倦ぐねたソメイヨシノを周りの木々が葉音を立てて嘲笑うかのようだった。


 授業が終わって、移動して、また授業を受ける。

 今日も今日とて変わらない日常を過ごしている。スリッパの音色が聴こえている以外は。

「ねぇ空、さっきクラスの子から聞いたんだけどさ。里中さん、三年の先輩に手を出したんだって。それもひとりじゃないって」

 移動教室から帰ってくるときにすみれが耳打ちしてきた。とっさに周りを見て里中さんがいないことを確認すると、すみれに「どういうこと?」と聞き直した。

「なんか、彼女持ちの人ばかり狙ってたぶらかしているって噂なんだけど、今日の朝練のときに先輩がハーフの子に彼氏奪われたって怒ってたの。だから……その噂は……」

 少し申し訳なさそうに語尾をにごすすみれ。すみれが嘘をついているとは思えない。里中さんがそんなことをするなんて思いたくもなかった。

「で、でも……それってなにかの間違いとかじゃないのかな」

「あたしもそう思いたいよ。けどあの子、関わりにくいし尊敬する先輩がそういってるから……」

 返す言葉もなく俺はただ喉を唸らせて考えいるだけだった。朝からのざわめきはこのことだったのか。

 葉から葉へ伝染するざわめきが木の一番下にいる俺に伝わってきたということはもうすでに学校中にその噂が充満しているだろう。

 転校してきたばかりの里中さんがどうしてこんなことになったのか。それは知るよしもないが、噂を聞いてしまうとこの学校自体が里中さんという存在を否定しているみたいで異様に感じる。

 出会ったころは木の下に位置する俺が関わる人間じゃないと思うほど美しく好奇だったけど、今は木の枝から離されている。まるで落ち葉のように。

 可視化された孤独は孤高とは程遠くて、同情しかできなかった。

「なあすみれ。かりにそれが本当だったらすみれはどうする?」

「どうするっていわれても……私情は挟めないよ。けど、私がやられたら……許さない」

 強く決意するように目はまっすぐと前を向いていた。

 俺は胸糞悪さを心の引き出しにしまって、今日のことはすべて聞かなかったことにした。



「あら里中さん、上靴はどうしたのかしら?」

「ビッチは上靴必要ないのかもよ」

「まじでそれやば〜」



「やっと終わったぁ」

 背伸びを知らせるチャイムが鳴り、帰宅の準備をする。今日もバイトがあるのはお約束で、制服を忘れていないか確認してカバンのチャックを閉める。

 これでよし。ひと仕事終わって息を吐く。そして教室の中を見渡す。いつもの光景、それは里中さんがいないことを表していた。いつもなら気にかけないのだが今日はやけに気にかかる。里中さんがいない机を見つめていた。

「どうした空、そろそろ行こうぜ」

 笹原が陽気な声で俺を呼んでいる。名残惜しそうに教室をあとにした。


   ◯


“Mac Ronaldo -マックロナウド-”

 通称“マック”あるいは“マクロ”。ここのハンバーガー屋さんは二十四時間営業のチェーン店で、交通も便利だし利用者も多い。学校の近くということもあって放課後は学生の客でひしめきあう。そういうときに限ってレジを任される。あからさまに取り乱すことはないが、注文を聞き逃したりクーポンの処理が遅かったりとドジをする。そのたびに奥で楽な担当をしている笹原が羨ましく感じる。

「いらっしゃいませ。ご注文おうかがいします」

 今日も人が多い。学校帰りの高校生、残業前のサラリーマン、ハピネスセットを注文する家族。この時間帯を過ぎれば客も落ち着いてきて休憩できる。今日は珍しく笹原も真面目に働いているおかげで、精神的にもホッとする。

 一心不乱に客をさばいていると、時計は十九時になっていた。客足はだいぶ減って俺たちは休憩という名のフライ担当になった。ちなみに笹原はずっと厨房でハンバーガーを作っていたため、ミイラのごとく魂もろとも痩けていた。

「笹原、大丈夫か?」

「なんでみんなビックやら季節限定を注文するの! 普通のでいいじゃん、シンプルイズザベストだよ!」

 笹原の嘆きに同情するも苦笑いする俺。ほかのクルーや客に聞こえていないか心配だけど、素直な笹原を見ているとメンタルも回復する。それに多分もうそろだと思う……。

「えーっとビックのセットで飲み物は……あ、空そんなとこにいたの! やっほー」

 厨房の奥にまで聞こえるこの声は間違いなくあいつだ。そう、笹原の想い人。

 笹原はすみれの声がした途端に首がはち切れんばかりに振り向いた。落ち着いて、まず首を少し戻そうか。

 それからすみれの部活帰り姿を見てエナジーチャージした。笹原の顔は世紀末のそれに変貌へんぼうしている。ここからは笹原のターンだ。

 二本の腕を酷使こくしし、ハンバーガーを目にも止まらぬ速さで作りあげる。そのほかドリンクやポテトもすべて笹原がこなした。

 店長も驚く、いや引くほどの働きっぷりだ。しかしこのドーピングは一時的なものにすぎず、新しいポテトが揚がるまえに試合終了のゴングが鳴った。作業台にもたれかかり、徹夜明けのような目でポテトを凝視する。

「まったく、気をつけなよ。この短時間で映画見たくらいお腹いっぱいだよ」

「お前はいいよなぁ。あんな美人の幼馴染みがいて、声もかけてくれるなんてさ」

 笹原はすっと立ちあがって、また元の状態に戻った。笹原のいったことは一理あるが、幼馴染みだからこそすみれの存在が自然なことで、その声や容姿はすでに日常になっている。

 俺からいわせれば、好きな人のためにこんなにも頑張ったり変化できる笹原のほうがずっと羨ましい。

 恋というのはトリカブトと同じで、使い方次第で毒にも薬にもなる。俺の図鑑にはまだトリカブトの説明はないようで、それが追加される日も見当がつかない。

「美人といえば、今日遅れてきたえーっと……アマリリスだっけ? あれは群を抜いているよなぁ」

 笹原は少しやらしい目で壁を見つめていた。

「すみれとどっちが可愛い?」

「島塚さんに決まってるだろ! なめとんのかわれぇぇぇ!!」

「笹原うるさい」

 先輩に頭をこづかれて大人しくなる笹原。俺らはまた黙々と仕事を続けた。油がぶくぶくと煮えたぎる音がAMSRになり、無心でポテトを眺める。いつも聞いている音なのに今日に限ってそれはヒーリング効果がある気がする。心の引き出しから飛び出したなにかを捕まえて、元の場所に押し込むように。

 


「あーお腹いっぱい。代わりにポテト食って」

「私もお腹いっぱいよ。てかあれって結局どうしたの?」

「ゴミはゴミ箱へ、でしょ?」

「やっば笑、マジでやったんだ」

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