▄︻┻┳═一 一発目 ≫【四季の始まり】
桜の咲く
俺はしっかりと覚えている。大人になってもきっと忘れないだろう。
私はしっかりと覚えていたい。大人になっても忘れたくない。
高校の春、あれは確かに運命的な出会いだった。
桜の花びらを身にまとい、暖かな太陽に照らされている彼女のこと。
血でまみれた冷たい私に、桜を
それは超えてはいけない
俺は
私は
もう一度あの“
* * *
光り
深夜にこんな場所に忍び込むのはヤンチャな子どもか“危ない大人”くらいだろう。ゆえに人の
六階につき、ぱふぱふと粉をふみながらポイントにいく。足跡にあわせて
「同じだな」
大きな窓が今日のポイント。すぐに準備をする。
肩にかけていたケースを床においてジッパーを開ける。
“カチャ”
ものの数分で準備は完了し、私と
スコープをのぞきターゲットを確認する。
まばたきをするようにスコープのつまみを
「さよなら」
“カランッ”
重い
「こちらリリィ、任務完了」
人は私を“
◯
——
「見て、あの子
「うわっ超
人で
「君かわいいねぇ。もしかしてモデルさん?」
「俺たちと遊ばない?」
街に出るときは
「ほらあの……そうだ最近できたスイーツなんとか?
「スイーツキャッスルね。もちろん俺らの
三月も終わりというのに今日は少し寒い。それなのに
「おい、
急に肩をつかまれて引っ張られる。なんだこいつら、ずっと近くにいたのか。
彼らは私の目を見つめて固まっている。ナンパするなら気の
父親
日本人の母とイギリス人の父。
「「し、失礼しましたぁぁ!!」」
失礼しました、ね。
「でさぁ、あの映画すっごく泣けてさ」
「本当に? じゃあ今度彼氏と行こうかな」
前から歩いてきた高校生が私の隣を通り過ぎていく。おそらく私と同い年だろう。別に
ポストに入っている手紙の束を
エレベーターを待っていると、清掃員のおばさんが話しかけてきた。
「お
渡されたのはマカロン。押しつけるように渡されたが、別に断る理由もなく素直に受け取る。
そこにちょうどよくエレベーターがきた。ドアが閉まる瞬間、おばさんと目があったので軽く
右手にはチラシ、左にはマカロン。エレベーターの角に身をあずけて、ぼんやりとカウントアップを眺める。
二十四階のランプがともりエレベーターが止まる。周りにはだれもいなく外の雑音すら聞こえない。右手のチラシを左手で持ち、カードキーをポケットから取り出す。ドアの鈍い金属音が廊下に響く。
やっと家についた。
「ただいま」
もちろん
リビングにあるのはテーブルとソファ、そして空気清浄機とベッド。料理はしないし、ゲームや音楽の趣味もない。ゆえに暮らすうえで必要最低限な物しか置いていない。
もらったマカロンと手紙をテーブルに置き、ため息まじりにソファに座る。
そしてくじ引きのようにチラシを手に取り、ひとつひとつ中身を確認する。
新しい化粧水のチラシ、専門学校の
そして最後のひとつ、大学のオープンキャンパスの案内の中に白い紙切れが入っていた。
いつものようにジッポーを取り出し、
“K”
紙切れに浮かんだのはその文字だけだった。
「了解」
私はさっそく服を
『夕飯までに帰ってくるからな』
『パパいってらっしゃい』
『気をつけてくださいね』
『もちろんだとも、それじゃ——』
時計の針は夜の十時過ぎを指している。私は
体を起こしてベッドに座り、リモコンで部屋の電気をつける。
スマホの
その写真を見て少し眠気が覚めた。
火照った体が冷えないようにバスタオルで包み、ドライヤーで乾かす。
髪を乾かし終わるとバスタオルを巻いたまま私室に向かう。この部屋を借りるときにベッドルームと説明があったが、あそこでは寝たくない。そういう意味でも改めて
ドアを開けると奥のほうに机があるのが見える。
バスタオルを洗濯カゴに放り投げクローゼットを開ける。パーティ用の高級ドレス、オーダーメイドのスーツ、ブランドのコート。どれもこれも私物だがすべて仕事のため。
その
適当に手前のドレスを引っ張り出す。黒ベースで胸元が大きく開いる。ワンポイントで金色の
手首を返して
手提げの小さなカバンを持ち、マカロンを口に運んで家を出る。
◯
夜になっても静まることを知らない新宿は大人たちで賑わをみせる。あちらこちらでキャッチや
今日は
“Kalmia”
それは私が目指していた会員制バー、カルミア。ドアの前に立つとカギが開く音がした。そのままドアノブを回して中へ入っていく。
「いらっしゃいませ、こちらへどうぞ」
カウンター席とテーブル席があるこのお店はレトロな内装で、部屋に流れるレコードがその雰囲気を醸し出している。カウンターの右から三番目が私の
店内は私とマスターだけだった。マスターはレコードを
「ホワイト・レディで」
「少々お待ちください」
ホワイト・レディはドライジン、ホワイトキュラソー、レモンジュースをそれぞれ二対二対一の
「お待たせしました」
さっそくグラスを手に取り、その
「マスター、これ……」
「どうかなさいましたか」
うつむきながら
「……じゃん」
「はて?」
それならと大きくゆっくり息を吸って……。
「これレモネードじゃん!!」
出されたのは黄色い
大声で文句をいったのにもかかわらずマスターはいたって
「リリィ様はまだ未成年でございます。ここは日本ですよ」
「七面倒くさい」
その間もマスターは執事のような微笑ましい顔をしている。
「こちら“おつまみ”でございます」
そういって目の前に一通の手紙を差し出してきた。白い入れ物には“青い
物珍しさも感じず、すんなりと開けると中には紙が入っていた。真っ先に目に入ってきたのは一〇〇万という数字だった。ざっと目を通してテーブルに置く。そして人差し指で優しく
紙を戻してにこやかなマスターに返した。
「今回の
「
一〇〇万円という数字に納得はしてるがどこか
ちょうどそのころ、店内の音楽が止まった。静かな空間にはカランッと氷が溶ける音とチックタックと鳴る古時計の音色のみが広がっていた。
「それで? これだけじゃないでしょ」
「さすがリリィ様。
新しいレコードを準備しようとしたマスターを呼び止めた。ニヤリと笑ったのが背中からでも伝わってくる。
手際よくレコードに針を落とすと、怪しく振り向いた彼の手にはまたも手紙が握られていた。今度は“黄色い蝋”で封がしてある。
「あの
「
「リリィ様には
「え?」
そんなバカな。おそるおそる中身を確認すると、そこには大きく“
マスターがいったことは正しく、
マスターのほうを見ると、私を
「し、七面倒くさい……」
このときはまだ、これが世界の均衡を
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