第161話 「いつもの」夜。
「「「「かんぱーい!」」」」
王都の夜、冒険者御用達の酒場兼食事処。
その一角、丸テーブルの上でガチンッ! と小気味よい音を立てて、四人のカップが重なった。
それから、僕が葡萄ジュース、ロココがミルク、ディシーが蜂蜜酒、ニーベリージュがレモン水を思い思いに傾け、今日の【
「ぷは~! おいし~! しっかり働いたあとの一杯ってさいっこ~! あ! おねえさ~ん! あたしに蜂蜜酒、もう一杯おねが~い!」
「ディシー、美味しいのはわかるけどさ。ちょっと飲むペース早いんじゃない? あ、ロココ。また口もとにミルクがついちゃってる」
「んゅ?」
「ふ。そういうな。ノエル。この中で満足に飲めるのはディシーだけ。せめて好きに飲ませてやればいい」
「そうだよ~! せっかくいっしょに飲めると思ったら、ニーべさん、ぜんっぜん飲めないっていうしさ~! あとちょっとでノエルが成人したら、ぜ~ったいつきあってもらうからね~! いまから予約しとくから~! あ! おね~さ~ん! 蜂蜜酒、もういっぱ~い!」
そんな、すっかり「いつもの」となったやりとりとともに、打ち上げはにぎやかに進んでいった。
「でも、本当によかったよね……。あのひとたち、みんな、ちゃんとおうちに帰してあげられそうで……」
「ああ。そうだな……」
テーブルの上に空の皿やカップが目立つようになったころ、頰を赤くしたしんみりとした口調のディシーに、やはりしんみりとした口調でニーベリージュが相槌を打つ。
あのあと、王都に帰り着いたその足ですぐ、僕たち【
そして、それぞれの場所で、王都民と冒険者について、あの森で回収した遺体や遺品のわずかな残留魔力と登録済みの固有魔力情報を照合。
さらに冒険者ギルドには、その判明した魔力情報をもとに、遺族へと遺体や遺品を返還する依頼を冒険者ギルド名義で発注。いまに至るというわけだ。
「いまや王国に正式に認定された、魔王の一体を討伐した【闇】の勇者パーティーである私たちが小事に表立って動くわけにはいかない。いろいろと影響が大きすぎるからな。ゆえに、最終的には他の冒険者に託すしかないのが心残りではあるが……」
「うん……」
「大丈夫だよ。ニーベ、ディシー。あの手の仕事にしては、報酬にはだいぶ色をつけておいたしさ。きっとすぐにとどけてくれるよ」
「うん。ノエルのいうとおり。帰るとき、依頼のはり紙ちらちら見てるひと、いっぱいいた」
「ノエル。ロココ。……そうだな。明日は報告を兼ねた陛下への謁見。聞いた話では、なにやら私たちに会わせたい人物もいるとのことだ。ディシー。この街の冒険者たちを信じて、私たちは私たちのなすべきことをなそう……!」
「ニーべさん……! うん……! そうだね……! よ~し! そうと決まれば、みんな、もう一回景気づけに!」
これもまたすっかり「いつもの」となったやりとりだった。
ことあるごとに持ちだしてくるディシーに応え、まんざらでもない僕たちも、みんないっせいにタイミングをあわせる。
「「「「かんぱーい!」」」」
ガチン! と小気味よい音がふたたび重なり合う。
こうして、楽しくも騒がしく「いつもの」夜は更けていった。
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