第145話 おだやかな時間と。
「でも、貴族じゃなくなるだけで、別に財産没収とかじゃないんだねー? ニーべさんにひどいことしてたやつら。えっと、ブラ……リふみゃふみゃ家? とそのお仲間さんだっけ?」
「ブラッドリーチ家だよ。ディシー」
「そう、それ! ブラッドリ……家! ニーべさんの希望でそうなったって聞いたけど、本当によかったの?」
「ニーべ。よかった?」
王都貴族区画。不当に牛耳っていたブラッドリーチ家から、ようやくとり戻したブラッドスライン家の屋敷の中のリビング。
昼食後に、執事さんに用意してもらったお茶を【
ふと、思いだしたようにディシーがそういいだした。
……いや、たぶん実際はずっと気になっていたんだろうけど。そして、興味が薄いのかあいかわらず名前を覚えていない。
「ああ。ディシー。ロココ。私は民を、王国を支えるべき存在である貴族に、それにふさわしくないあのものどもが名を連ねているのが許せないだけだ。けっして命を奪いたいわけでも、路頭に迷わせたいわけでもない。私の希望はこれですべて叶ったよ」
「そっか……! なら、ニーべさん。本当によかったね! い~っぱい思い出のつまったこのブラッドスライン家のお屋敷が返ってきて!」
「うん。よかった。ニーべ」
「……ああ。ありがとう。ディシー。ロココ」
満面の笑みで、はにかんだ笑顔で祝福の言葉をかけるふたりに、目を細めてうれしそうに微笑み返すニーベリージュ。
とても優しく、おだやかな時間だった。
……どうやらディシーもブラッドスライン家のほうは、ちゃんと覚えているみたいだし。
けれど、どうなのだろう?
ニーベリージュのいうとおり、財産が没収されなかったことで、ブラッドリーチ家やそれに与するものたちがさらされることになる苦境は、多少は軽減されることになったのだろうか?
……僕は、そうは思わない。
貴族であることと、平民であることはまるで違う。
きっと、いやおうなしにこれまでとはいろいろと変わってくるだろう。交友関係、主従関係、それから、ブラッドリーチ家がしているという商売も。
……そして、おそらくは、さらされることになる悪意も。
のぞきこむカップの中の水面に、少しだけ想像した彼らの未来。
ある意味自業自得ともいえるそれを振りきるように軽く首を振ると、僕は少しだけ冷めた紅茶をひと息に飲みほした。
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