第144話 とり戻したもの。
「まさか……。正式にはブラッドリーチ家の使用人である我々を連座処分どころか、引き続き雇っていただけるとは、夢にも思いませんでした」
「あたりまえだろう? 積極的に私や兄を害そうとしたならともかく、雇われの身であるお前たちにそういった意思があったとは、とても思えないからな。これから二心なく私たちに仕えてもらえれば、それでいい」
陽光の射しこむ屋敷の中。僕たちの前にたたずむのは、直立不動で身を震わせる老執事。その後ろにずらりと居並ぶのは、いずれも緊張した面持ちの使用人やメイドたち。
いったいこれからどうなるのか。生きた心地のしない――そう顔に書いてあるような彼らの不安や心配をニーベリージュはあっさりとそう切って捨てる。
「異があるならば、次が見つかるまででもかまわない。見てのとおり、これからは明確にいままでとは違ってくるからな。無理についてこいとはいわない。……まあ、屋敷を維持できる最低限の人数くらいは、できれば残ってもらいたいものだが」
「……おそれながら、ご当主さま」
美しく整った眉をしかめてそう続けたニーベリージュに、今度は老執事がピンと背筋を伸ばしたまま口を挟んだ。
「たしかに我々は雇われの身。命じられなければ、自らの意思で選ぶことなどできません、たったひとつ。己が身をかけてだれにお仕えするのかという確固たる意思をのぞいて」
その老執事の言葉に、後ろに居並ぶ全員が居住まいを正し、いっせいに頭を下げる。
「我々一同、このたびご当主さまより受けた身にあまる大恩はけっして忘れません……! 誠心誠意お仕えすることをいまここに誓わせていただきます……! 我々の新たな主、【
「ふ。ああ。こちらこそよろしく頼む。……爺」
「はい……! ニーベリージュさま……!」
他者に仕えられるのに慣れた威厳たっぷりの態度の中、わずかばかりに唇をほころばせ、彼らの献身に応えるニーベリージュ。
「あわわわ……!」
「ん……!」
……で、目を白黒させるディシーを筆頭に、ガチガチに固まった僕と、その背中に半分隠れたロココといった、そんな経験なんてまるでない小市民一同は、その光景に圧倒されっぱなしだった。
僕たちがいまいるのは、王都にあるニーベリージュの――つまり、代々続くブラッドスライン家の屋敷。
そう。僕たちが【死霊聖魔女王】を倒し、この国の王との謁見をはたし、そして【闇】の聖剣を手に入れた夜から数日。
老王はあのときニーベリージュと交わした約束をしっかりと守った。
我が物顔でこの屋敷を牛耳るニーベリージュの遠戚のブラッドリーチ家のものたちと、それに与する、あるいは裏で糸を引いていた貴族たちに、きっちりと鉄槌を下したのだ。
それは、過去と未来における15代にもおよぶ爵位剥奪。
つまり、彼らが貴族であった事実そのものをなかったことにし、この先の可能性すらも摘みとる――自らの血筋を貴ぶ彼らにとってもっとも耐え難い、まさしく悪夢のような厳罰をもって。
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