第141話 決別。
「
隻腕となったその男が残る左腕一本で亜空間収納からとり出したのは、鈍く光る使い古された長剣。
「ブレン……!? よせ……! やめよ……!」
「くっ! 乱心したか!? よもや御前で……!」
まばゆく輝く聖剣の間の中。
だれもが僕が右手に掲げる【闇】の聖剣に目を奪われる中、その隙を縫って、赤く目を血走らせた男が肉薄する。
堕ちた勇者ブレン。
「ノエル……!」
「ふぇっ!? ノエル!?」
「くっ!? ノエルっ! 血迷ったか! 【光】の勇者ぁっ!」
「いやぁっ! ノエルさんっ!?」
僕を助けようと、いてもたってもいられず、みんなが駆けだそうとするのが見えた。
「おおぉぉああぁぁぁぁっ!」
だがそのだれよりも一瞬早く、僕の――【闇】の聖剣の内側へと間合いをつめたブレンがその尋常ならざる狂気の宿る刃を僕へと向けて振るう。
それは、あの【光】の勇者パーティーで、僕が数えきれないほどに見てきた太刀筋。当代最強の剣士が、最も優れた【光】が放つ太刀筋。
……けど、利き手じゃない。
「【
「っか……!?」
だから、僕はただそっと、返した。
「もうやめよう。ブレン」
ブレンが放った斬撃を、殺意を。
いまのブレンにできる渾身の――けれど本来の最高には遠くおよばない一撃を放った左腕にそっと僕の左手で触れ、返し、自らが振るったその刃の切先を喉もとに突きつける。
ブレンがギリリとその歯を砕くかと思うほどに噛みしめる音が僕の耳に響いた。
「ノエル……! 俺は……! すべてを失ったんだ……! 聖剣も……! 勇者としての資格も……! いま、お前が手に入れたものを……! すべて……! 【闇】の勇者だと……? そんなものがいるなら、俺はなぜ……!? 俺はぁぁぁっ……!」
放したブレンの左手から床に、カランと傷だらけの長剣が落ちる。
「無事か! 【闇】の勇者!」
「「「ノエル!」」」
「ノエルさん!」
「ううおぉぉぉぉあああぁぁぁぁっ……! 俺はぁぁぁぁぁぁっ……!」
僕を助けようとしていたみんなが駆けつけると同時、吐き捨てるような慟哭と嗚咽とともに、ブレンがその場にくずれ落ちた。
それはきっと、僕が【光】のパーティーにいたときにはついに見ることがなかった、まったく取り繕うことがない彼の本当の姿。
ブレン。
僕にとって、目標であこがれで、絶対に許せなくて、そして超えたいと願った男。
僕はいま、ほんの少しだけ彼を知った――この決別の時に。
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