第139話 王は語る。
「古き時代に【神の金属】によって作られたとされる武具。そのうち、この王国に伝わる至宝はふたつ。そう。それが【光】と【闇】の聖剣」
壁も床も激しい【光】によって見えなくなった聖剣の間の中。
その中で異彩な存在感を発する、青く黒い【光】を放つ、床に刺さった一振りの刃――【闇】の聖剣。
王の説明により、その存在を僕が正しく認識したことで、ようやくその目の縛りが解けた。酷使しすぎてズキズキと痛む目を休める僕の耳に、老王の声が厳かに響く。
その閉じたまぶたの奥に王の言葉とともに【絵】を描きながら、僕は聞いた。この王国の建国の歴史を。
王国の成立前。この地には魔物と、そして当時の【魔王】と戦う聖剣に選ばれたふたりの勇者の姿があった。そう。【光】と【闇】の勇者が。
わずかに伝わる逸話では、【闇】の方がより強く、優れていたとされる。だが、当時の【魔王】の一体の討伐と引き換えに、【闇】の勇者は命を落とす。
その後、建国の祖、初代王となった【光】の勇者は、無二の友でもあった【闇】の勇者の形見。つまり【闇】の聖剣を自らの【光】の聖剣とともに、至宝として納めた。
いつの日か、この聖剣の間に選ばれしものが、【光】と【闇】の勇者を継承するものがふたたび現れることを願って。
「だが、【光】の勇者は、代を経て幾人も現れたが、【闇】の勇者はひとりとして現れなかった」
その中でも、【闇】属性の魔物との、人間と同じように代替わりしながら【魔王】との戦いは続く。
そして、やがて【闇】の勇者の存在は忘れさられ、【光】がすべての中心に、魔物と同じ【闇】属性を蔑視するいまの社会が生まれた。
だが、それでも代々の王はずっと待っていた。
「王家への忠義厚きブラッドスライン家に現れぬものか、と思っていた時期もあった、そして、ついにいまここに現れた。そう。いかなる縁があったかは知らぬが、其方とともにな。ニーべリージュ。ブラッドスライン家現当主よ」
その名前が出たとき、僕はすっと目を開いた。驚きに打ち震えるニーベリージュの顔を見つめる。
「へ、陛下……! わ、私のことを……?」
「無論。ブラッドスライン家こそは、戦場の軍神とも名高い、代々の王の治世を影で支えた誠の忠臣。だが今回、一部の心ないものの暴走を止められず、最後のひとりとなった其方までも、あやうく戦場へと送りかけてしまった。このとおり心から詫びよう」
「へ、陛下……!?」
そして、ニーべリージュに向かって、老王が玉座から立ち、頭を下げた。
その本来人前で一国の元首が見せることがありえない対応は、どんな言葉よりも、王が本心からブラッドスライン家を、そしてニーべリージュを臣下として得がたいものと思っているのだと実感させた。
「ニーべリージュよ。【死霊魔王】を討ち果たせし【英雄】のひとりよ。其方は我になにを望む?」
厳かに、けれどどこか優しさをにじませた声で、王がニーべリージュに語りかける。
「陛下……! おそれながら申し上げます……! どうか、私にこれからもノエルたちと、【
左右色違いの紫と赤の瞳に浮かぶ涙。それを落ちないようにグッと堪えながら、ニーべリージュが叫ぶ。
「そして……! 叶うならば、どうか我がブラッドスライン家の父祖代々の忠義を嘲笑ったものどもに、この王国に害をなす不心得ものどもに、鉄槌を……! 父祖代々の英霊の鎮魂のために、どうか……!」
その身に渦巻く激情はいかほどだったろうか。それでも最後までニーべリージュは涙を流さなかった。
「うむ。もとよりそのつもりである。安心せよ。ニーベリージュ」
「っ……! ありがとう……ござ……い……ます……!」
うつむき、そっと涙をこぼすニーべリージュ。そこから視線を外し、老王が静かな目でまっすぐに僕を見た。
「さて。【
その問いに対する僕の答えは、ひとつしかなかった。
「僕は、人々の希望に、【英雄】に――【勇者】に、なりたい……!」
「うむ……! よくぞいった……! ならば、触れるがよい……! ノエル……! この王国のはじまりより伝わりし至宝、【闇】の聖剣に……! 幾星霜を経てついにいまここに現れし、新たなる継承者よ……!」
そして、僕は立ち上がり、歩きだす。
【闇】の聖剣――新たなる僕の運命のはじまりに向かって。
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