第137話 宣告。

星弓士せいきゅうしステア。我が最も信を置く部下にして、友のひとり。そこに控える騎士団長のその末愛娘よ。よくぞ戻った。くわしくは聞かぬが、いまの其方のその様を見れば、心砕かれるような出来事があったとわかる。なれば、先に受けた報告。其方の願いどおり、騎士団への復帰を認めよう。【黎明の陽デイブレイク】への所属、大義であった。これからもこの国のために力をつくしてほしい」


「はい……!」


 【死霊聖魔女王】との戦いが終わった直後の着の身着のまま。つまりは、ほとんど裸の上に僕の貸した黒コート一枚を羽織ったままの姿。


 星弓士せいきゅうしステアが感極まったように涙声で、老王へと返事を返す。


 王都の王城。その中でも限られた人間しか出入りできない聖剣の間。


 その壁も床も黄金一色に満たされた部屋の中。縦一直線に走る青黒い【光】の線にはばまれて、僕ひとりその顔の、姿の見えないまま、老王の話は続いていた。



 ああ、やっぱりあの黄金騎士、ステアのお父さんだったのか。見つめる目がなんか優しかったもんな。


 けど、娘のあんなあられもない格好を見て取り乱さないのは、さすが騎士団長といったところか。そのあと現れた銀の鎧の女騎士にも反応してたから、たぶんあのひともステアの。


 そんな考えをめぐらせながらも、僕の頭は半分も働いていなかった。


 目が、離せなかったからだ。


 王の姿を隠すように、縦一本に走る青黒い【光】の線。その存在に気づいたときから、僕の目はほとんどまばたきすらできず、その一点に吸いこまれている。


 それはまるで、あの青黒い【光】の線が僕になにかを訴えかけているかのように。


「では、次に【光】の勇者ブレン」


 だが、老王が呼んだその名を耳にした瞬間、僕の金縛りが解ける。


 ブレン。僕にとって、目標であこがれで、絶対に許せなくて、超えたいと願った男。


『そんな……!? 聖剣の……間……!? なら、まさか……!? 俺は……!?』


 そして、あの慟哭。


 【死霊聖魔女王】の前身、【死霊魔王】に敗れ、仲間と利き腕を失った勇者ブレンに、王がかける言葉。僕にとってそれが気にならないわけがなかった。


「【死霊魔王】とその配下との勇猛なる戦いぶりは聞き及んだ。見事である。十全に勇者としての役目を果たしたといえよう」


「……もったいないお言葉」


 その王の言葉に、【光】の勇者ブレンが上げていた面を下げ、うやうやしく頭を垂れた。


「だが、その結果、信頼できる仲間と利き腕を失ったのだ。其方に刻まれた傷、心身ともに深かろう。ブレンよ。ただいまをもって【黎明の陽デイブレイク】を解散する。十分な褒賞を用意しよう。しばし王都より離れ、休むがよい。其方に託した【光】の聖剣は、ふたたび王家が預かろう」


「……わかりっ……ましたっ……!」


 ブレンの、ギリギリと歯を噛み締める音が僕の耳に届く。


 勇者のあかしである聖剣の返却。それはつまり、実質的なクビ宣告と同義だった。





♦♦♦♦♦


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