第136話 線。

「こたびの【死霊魔王】との戦い、誠に大義であった。勇者たちよ」


 聖剣の間。


 勇者ブレンがそう呼んだ、床も壁も煌びやかな黄金一色で染め上げられたその広間。


 おそらくは転移でしか訪れることのできない、王城の中でも限られたものしか立ち入ることのできない一室で。


 僕たち【輝く月ルミナス】の四人と【黎明の陽デイブレイク】のふたり、勇者ブレンと星弓士せいきゅうしステアはこの国の王、オルドライト陛下と謁見していた。



「戦いを終えたばかりの其方らのいまの有り様を見れば、【死霊魔王】との戦い、それがどれほど過酷であったかは目に見えてわかる。【黎明の陽デイブレイク】、そして【輝く月ルミナス】。その辛苦と働きには、十二分に報いよう」


 ひざまずき、うつむく僕たちの上から陛下のお声がかけられる。


 その声は、まぎれもなく為政者としての威厳に満ちて、けれどどこか僕には――疲れきっているようにも感じられた。


「まずはみな、おもてを上げよ」


 その声に応え、僕は顔を上げ――え?


 


 影に、なっていた。



「うむ。さて、まずは【黎明の陽デイブレイク】。無念にも散った聖騎士パラッドについては、誠に残念であった。かの者の遺族には十分な見舞金を用意し、盛大に弔うことでその手向けとしたい」


 壁も床も黄金一色で染め上げられたその空間。高く階段の上に用意されたその玉座に座る、老いた王。


 ちょうど、その直線上。まるでその姿を隠すように、黄金一色のこの広間の中、そこだけ青黒い【光】の線が一本、真ん中に縦に、走っている。


 なんだ……!? これ……!? 


 それは、得体の知れない異様な感覚。僕はすぐにまわりに目を走らせた。



 けれど、おかしい。


 みな一様に聴き入っていたのだ。


 黄金騎士。苦渋の表情を浮かべる勇者ブレン。無表情のロココ、緊張で落ち着かない様子のディシー、感激に目を潤ませるニーべリージュ。意外にも堂々としたステア。


 その表情に違いこそあれ、まっすぐに顔を向け、みな一様にその為政者の言葉を聞き漏らすまいと、ただ見入っているだけだった。まるで、その姿が、顔がくっきりと見えているかのように。


 まさか……!? 僕だけ……!?



「次に、ここには居らぬが聖女マリーア。魔王による呪いの類を受け、いたましい姿になり果てたと聞くが、できるかぎりの手はつくそう。また、もし呪いを解くことが叶わぬとも、つつがなく暮らせる手立ては整えよう」


 威厳に満ちたと同時に疲れきった声のまま、老王の話は続く。


 ただひとり、僕だけを混乱と困惑の渦の中、置き去りにしたままで。





♦♦♦♦♦


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