第128話 青い【月】。
「我は刻み、我は顕す!
【
赤く暮れはじめた空に、戦場に、青き月が顕現する。それは、高く空の上に浮かぶ本物の月ではなく、ディシーがつくりだした泡沫の幻――僕たちの切り札。
「うふふ。なにを企んでいるのかと思ったら、いったいそれ、なんのつもりかしら? なんの力も、魔力さえも欠片も感じないのだけ――」
薄笑いを浮かべた【死霊聖魔女王】〝玩弄〟のネクロディギス・マリーアの表情が、そこでそのまま凍りついた。
そう。【死霊聖魔女王】のいうとおり、たしかにあの【月】自体には、なんの力も魔力もない。
ただし。
「あ、きれい……」
断続的に聞こえていた【光】の矢を撃つ音が一瞬だけ途切れる。
かわりに僕の後方から聞こえてきたのは、いまのこの無数の死霊たちがうごめく悪夢のような戦場にはそぐわない、思わずこぼしてしまったような
いまこの戦場に広がるそれは、たしかに幻想的とさえいえる光景だった。
戦場に倒れるすべての死霊たちの骸から、その制御を失った魔力がいっせいに無数の青い光となって立ち昇る様は。
「こ、これは……? ま、まさか貴方たち……!」
空を見上げていた【死霊聖魔女王】の表情が驚がくのものに変わる。
そう。【死霊聖魔女王】……! お前は最大の失策を犯した……!
「はああああっ!」
「おおおっ!」
ニーべリージュが
すぐにその体に内包された制御を失った魔力は、青い光となって立ち昇り、いまもその大きさと輝きを増し続ける空に上る【月】へと吸いこまれていった。
そう。僕が望み、ディシーが創りだしたこの魔法は、それ自体にはなんの力もない。ただ吸いこみ、そして大きくなるだけだ。
この戦場に満ちた制御を失った魔力。仮初の命を失った死霊の骸、僕たちやステアが放った技の残滓。
それをすべて吸いこみ、どこまでも際限なく、純粋で膨大な魔力のかたまりとして……!
これが僕たちの切り札……! 【
そう……! つまりは、【死霊聖魔女王】……!
お前自身が召喚した【
「う、うふふ……! あはは……!」
呆然と空を見上げていたはずの【死霊聖魔女王】ネクロディギス・マリーア。
「あはははははははははははは! これは驚いたわ! 貴方たち人間って、本当にどこまで愚かなのかしら!」
だがそのとき、その狂ったような高笑いが青い【月】の照らす戦場に鳴り響いた。
――その心の奥底から僕たちを憐れみ、嘲るような高笑いが。
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