第126話【死霊行軍(デススタンピード)】。

 天高く上っていた陽がかげりはじめ、時刻は夕にさしかかり始めたグランディル山の頂。


「来いぃっ……! 憐れで惨めな死霊どもぉっ……! 【死霊行軍デススタンピードォォッ】!」


 【死霊聖魔女王】〝玩弄〟のネクロディギス・マリーアの絶叫とともに、いまやただの瓦礫跡と化した遺跡すべてを覆いつくす巨大な黒い魔法陣が浮かび上がる。


 そして。


 オオオオオオオオオオオオオオ……!


 地の底から響くような怨嗟の声とともに、骸骨兵スケルトン屍人グールに、腐肉狼ゾンビウルフといった屍獣、その他無数の死霊系アンデッド系魔物が―― 僕たちの前に【死霊行軍デススタンピード】が顕現する。


「え……? な、なに……? これ……?」


「ぼうっとするな! ディシー! ここは危険だ! 一度下がるぞ! すぐにノエルと合流する! 早く私の後ろにつけ! ロココもだ!」


「うん……! わかった、ニーべ……!」



 オオオオオオオオオオオオオオ……!


 その死霊の群れの濁流は、僕たちの勢いを削ぐには十分すぎた。


「はあああああっ! 英霊よ! 我が友を守る力を! 【焔霊力場スピリットフィールド】!」


 後ろにかばったロココとディシーを守るためにニーべリージュがその身にまとう青い霊火を盾のように広げながら、一歩ずつ下がっていく。


 オオオオオオオオオオオオオオ……!


「くっ!」


 もちろん僕だって例外じゃない。


 魔力状態の回復を待つために、ロココたちが【死霊聖魔女王】と戦っている間にこっそりと距離をとっていた僕は――けれど、いま死霊たちとの戦いを余儀なくされていた。


「おおおっ!」


 黒刀を失った僕は、残されたその鞘でただただ迫り来る死霊たちを打ちすえ続けるしかない。


 いつのまにか僕も、そして下がり続けるロココたちもすっかりと【死霊聖魔女王】から遠くに離されていた。


 ……あと少しのところまで追いつめた、あとわずかで倒せたはずの相手が、手の届かないところに。



「く……あはははは! どうだ! 見たか、人間ども! これが【死霊行軍デススタンピード】! 魔王たるわたくしは、自らが生みだした魔物をどこにいようと自由に召喚することができるのよ! まあ魔力は大量に使わされるけれど、そんなのはなんてこともないわ! さあ! 主たるわたくしにすべて捧げなさい! 憐れで惨めな死霊ども!」


 無数の死霊の軍勢の後方。【死霊聖魔女王】が耳障りな高笑いを上げる。


 オオオオオオオオオオオオオオ……!


「あははははははは!」


 それは、文字どおり、絶対者からの強制的な徴収。腐った肉や骨の体を崩壊させながら、塵へと還りながら、死霊たちがその魔力を【死霊聖魔女王】に捧げていく。


「うふふふふ! あはははは! 残念だったわね? 【輝く月ルミナス】! わたくしにこの奥の手を使わせるなんて、わたくしをここまで追いつめるなんて、人間にしては本当によくやったわ! けれど、それももうお終い! さあ、せいぜいこの雑魚どもと戯れるがいいわ! 疲弊しきって這いつくばった貴方たちのその首をゆっくりとわたくしが刈りとってあげるから!」



 ……状況は最悪といえた。たしかにこんな雑魚の死霊系アンデッド系魔物に僕たちが遅れをとることはまずありえない。けれど、確実に体力は削られていき、そしていずれは【死霊聖魔女王】のいうとおりに――


「うふふふふ! あははははははは!」


 ――なんて、そんなふうに考えてるんだろ?


『ロココ、ニーべ、ディシー。聞こえる? 作戦があるんだ。ディシー。これから僕がいう魔法を大急ぎで構築してほしい』


 【死霊聖魔女王】に聞こえないように、人間だけに聞こえるように調節した魔力を含んだ【声】で僕は語りかける。


 その思い上がりをいま正してやる……! 【死霊聖魔女王】ネクロディギス・マリーア……! まだ僕たちにだって、奥の手がある……!  追いつめられたお前はいま、最大の失策を犯したんだ……! 


 これだけあれば、はありすぎるほどに十分……!



「わ、わかった……! ノエル……! やってみるよ……!」


 そして、限界を超えて互いにすべてを出しつくしあう僕たち【輝く月ルミナス】と【死霊聖魔女王】〝玩弄〟のネクロディギス・マリーア。


 その決着の時がまもなく訪れようとしていた。互いに残された真に最後の奥の手をぶつけ合う決着の時が。






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