第122話 攻防。

『ロココ! ディシー! ニーべ! 頼む!』


「穿ち、抉れ! 尽く!」


「我は刻み、我はあらわす! その幾千なるかいなを以て、我が敵を塵芥ちりあくた、影も残さず万象一切圧し潰し、無に還せ! 【幾千なるサウザンデッド・亡者の腕オーバーラン】!」


「英霊よ! 私に力を! はああああああっ!」


 天高く陽が上り、時刻は昼を越えたグランディル山の頂の、いまやただの瓦礫跡と化した遺跡にて。


 ロココの無数に枝分かれした赤い呪紋が、ディシーの黒き精霊が顕現させた千を超える【腕】が、二―ベリージュの青い霊火をまとった槍斧ハルバードによる怒涛の連続突きが、正面と左右からほぼ同時に【死霊聖魔女王】〝玩弄〟のネクロディギス・マリーアに襲いかかった。


「あらあら。意外に単純ね? 大技が駄目だったから、今度は手数で勝負ってことかしら? うふふ。まあいいわ。受けて立ちましょう。【衆愚なる死霊の手レギオンズ・デスハンド】」


 対して【死霊聖魔女王】はその周囲、辺り一帯の地面から生みだした無数の死霊の手で、左右の【光】と【闇】の刃でそれを迎え撃つ。


「うふふふふ……! あはははは……!」


「「「くっ……! この……! まだまだ!」」」


 途切れることのない剣戟と、魔力と魔力のぶつかり合い。その嵐のような攻防の中、僕は密かに駆けだした。

 

 狙いは【死霊聖魔女王】の背後。ロココたちに意識を集中したその隙を一瞬で刈りとる……!


「「レイス流暗殺術、奥義! 【虚影零ゼロハイド・突破ストライク】!」


 無防備なその背中へと切先に魔力を集中した僕の黒刀が迫――


「うふふ……! そう来ると思っていた……わ!?」


「うおおおおおおっ!」


 ――それを予期していたかのように、すんでのところで振り返った【死霊聖魔女王】。


 だが僕の速さがその予想を超えていたのか、用意していたらしき迎撃はまにあわず、交差した左右の刃でかろうじて黒刀を防ぐにとどまった。


 その衝突の勢いは止まらず、僕と【死霊聖魔女王】は激しく地面を削りながら刃と刃でせり合いつづける。


「う、うふふ……! なんて恐ろしい技なのかしら……! 微細な【死霊の手デスハンド】を張りめぐらせて、仕かけてくるタイミングをはかっていたというのに、まさか魔王たるこのわたくしの予想を超えてくるなんて……!」


「うおおおおおおおおっ!」


 【死霊聖魔女王】がなにかいっているが関係ない。そのあせり具合から見ても、この技があたればただではすまないことはまちがいないはず……!

 

 だったら、このまま全力で押しきってやるだけだ!


「うおおおおおおおおっ!」


「うふふふふふふふ……!」



 そして、決着のときは訪れる。


 同時だった。


「うふふ……! あの期待外れの【光】の勇者ブレンとは違い、本当にすばらしい技だったわ……! まさか、このわたくしをここまで追いつめるなんて……!」


 僕の圧力に限界を迎え、【死霊聖魔女王】の異形の両腕、その肥大した筋肉が爆ぜ割れ、地に落ちるのと。


「はあっ……! はあっ……! はあっ……!」


 いま持てるすべての魔力を使い果たし、僕ががっくりとひざをつき、そして。


 パキ、ピキィィィン……!


 酷使しつづけた愛用の黒刀。その刀身がついにその限界を迎え、根本のわずかな刃先だけを残して粉々に砕け散るのは。





♦♦♦♦♦


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