第121話【光】と【闇】。

「我が敵を圧砕し、粉砕し、撃滅せよ! 【超重破壊黒球ギガフォースボール】!」


 天高く陽が上り、時刻は昼を越えたグランディル山の頂の、いまやただの瓦礫跡と化した遺跡にて。


 高らかにディシーの詠唱が響き渡り、黒き精霊がその暴威を顕す。


 それは、見上げるものから照らす太陽を覆いつくすような超巨大質量の【珠】。


 もっとも純粋な暴力がいま――【死霊聖魔女王】〝玩弄〟のネクロディギス・マリーアのその体を圧し潰さんと、迫る。


「うふふ。まさか、こんなのを狙ってたなんて。本当に油断も隙もないわね? 貴方たち。けど、残念。こんな遅いのじゃ、いまのわたくしなら軽く――」


「させない。苛み、縛れ……!」


「――なっ!?」


 嘲笑を浮かべながら、その場を退こうとする【死霊聖魔女王】の両足を地を這う赤い呪紋が縛り上げた。


【死霊聖魔女王】が自らを守るべく周囲に張り巡らせた黒い霊火の柱、【死霊滅陣デスグランド】のその隙間をかいくぐって幾本もの呪紋が。


「いっけぇぇぇっ! 【クロちゃぁぁん】っ!」


 ディシーのかけ声とともに、重力で加速した黒き精霊の【珠】がその勢いを増して【死霊聖魔女王】に迫――


「うふふ。期待外れの勇者ブレンたちと違って、本当に愉しませてくれるわね? 貴方たち。この新しい体にもなじんできたことだし、ならばわたくしも、そのに全力で応えましょう……!」


 ビキキキ……!


 ――ぎちぎちと軋むほどに引き絞られた【死霊聖魔女王】の異形の両腕。その先端に握られた【光】の聖剣がまばゆい輝きを放ち、【闇】の魔剣が禍々しく燃え盛る黒い炎をまとう。


「うふふ……! よく見ておきなさい……! 【輝く月ルミナス】……! これが新たな高みに上ったわたくしの力……! 名づけて、【光魔アンチ――」


 そして、頭上に向けて【死霊聖魔女王】がその異形の両腕を交差させる。


「――十字斬クロス】!」


 虚空に刻まれた【光】と【闇】の刃。天を目がけて刻まれた巨大な十字は、超巨大質量の【珠】を頭上に届く寸前のところで4つに切り裂いた。


「うふふ。どうかしら? 貴方たち? いまのわたくしったら、【光】と【闇】があわさって最強に見えない?」


 ズズウンッと重々しい音とともに、4つに断ち割れ落ちた黒い【珠】が地響きを立てる。


 その組成を破壊され、大気中の魔力へと還る黒い霧を背後に【死霊聖魔女王】は艶然と微笑んだ。



 ……まずいな。どんどん手がつけられなくなってきてる。体がなじんできたってのは嘘じゃなさそうだ。

 

 気配を殺し、その様を見ながら、僕は決意する。


 こっそりと左手の腕輪の亜空間収納からとりだしたのは、一本だけ持っていた最上級回復薬。 


 怪我や体力だけでなく、魔力状態も万全にするそれをふたを開けて一息に飲みほす。


『ロココ。ディシー。ニーベ。聞いて。これ以上長引かせるのは僕たちに不利だ。次で勝負をかけるよ……!』


 それから【死霊聖魔女王】に聞こえないように、魔力を含ませ調節した【声】で作戦を伝える。


 ……長引けば長引くほど【死霊聖魔女王】はあの体になじんで強くなり、逆に僕たちの手の内はどんどん明かされてしまう。


 だから、もうここで決めるしかない。この状況から起死回生を起こしえるただひとつの手段。まだ【死霊聖魔女王】に知られていない、いま僕が使える最後の切り札。


 レイス流暗殺術、奥義ノ参で……!


「わかった」 「うん!」 「ああ……!」


 そして、みんなの思い思いの返事が返ってきた直後――起死回生をかけた僕たちの最終作戦が始まった。





♦♦♦♦♦


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