第120話 ひと仕事。

「そんなのでこれが避けられるのかしら? 【死霊魔剣デスブレイド】」


 天高く陽が上り、時刻は昼を越えたグランディル山の頂の、いまやただの瓦礫跡と化した遺跡にて。


 砕けた大盾の破片が舞う中、技の反動でがっくりとひざをついた僕に向かって【死霊聖魔女王】〝玩弄〟のネクロディギス・マリーアの【闇】の凶刃が振り下ろされる。


「「ノエル!」」


「……あら?」


 そんな僕を助けようと、ふたりの仲間の声が同時に聞こえた。


 伸ばした赤い呪紋を一時的に動けなくなっている僕の体に巻きつけ、急いで後方に引き戻し始めるロココと。


「うふふ。あらあら回復薬でも飲んだのかしら? せっかく痛めつけてあげたのに、貴女まだまだ元気いっぱいじゃない」


「ああ! 正面に立って、お前と戦い引きつけるのが私の役目だからな! 【死霊聖魔女王】!」


 槍斧ハルバードを手にふたたび最前線へと急いで駆けつけ、僕へと振り下ろされる【闇】の刃を立ちはだかり受け止めたニーベリージュ。


「でも、おかしいわね? うっとうしい貴女の【霊力場フィールド】なら、さっきわたくしの【聖光破斬シャイニング・エッジ】でことごとく吹き飛ばしてあげたと思ったのだけど、この圧力は――ああ、そういうこと」


 【死霊聖魔女王】が嘲笑するように艶やかな唇を軽くつり上げた。


「お行儀の悪い子ね? ニーベリージュ。わたくしの死霊を奪うなんて。うふふ。英霊が聞いてあきれるわ」


 そう。いま【死霊聖魔女王】と相対するニーベリージュがまとっているのは、青ではなく黒い霊火。


 だが、槍斧ハルバードを振るいながらニーベリージュが叫ぶ。


「なんとでもいうがいい! だがな【死霊聖魔女王】! 貴様ではなく私とともに在ることを選んだ以上、彼らもまた英霊だ!」


 その言葉を証明するかのように、まとう霊火が一度ゆらめくと徐々に色が黒から青に変わり始めた。


「そう。まあどっちでもいいわ。何度でも貴女ごと消し飛ばしてあげるだけ」


「くっ!?」


 その言葉を合図にふたたび槍斧ハルバードと剣で激しく打ち合うニーベリージュと【死霊聖魔女王】。


 だが、先ほどまでと違い【死霊聖魔女王】の手数は二倍。そして、最初は拙かったその剣さばきもいまや見違えるほどに向上していた。


 そして。


「うふふふふふ……!」


「ぐあっ!?」


 ついに【死霊聖魔女王】がニーベリージュを凌駕した。異形の両腕から振るわれる剣撃を受け止めきれず、ニーベリージュが大きく吹き飛ばされ、地にひざをつく。


「うふふ。その程度なの? ニーベリージュ。そんなさまでわたくしを引きつけるっていう貴女の役割、本当に果たせるのかしら?」


「はあっ……! はあっ……! はあっ……!」


 圧倒的優位を確信したように【死霊聖魔女王】が嘲り笑う。だが、それに対し荒く息をつきながらもニーベリージュは不敵な笑みを返した。


「ああ。いまちょうどひと仕事終えたところだ……!」


「……なんですって?」



「我は刻み、我はあらわす! その純粋なる破壊の暴威をもって、我が敵を圧砕し、粉砕し、撃滅せよ! 【超重破壊黒球ギガフォースボール】!」


 そのとき。高速で突進する超巨大質量の【珠】が、いまひとたび黒元の精霊魔女ダークエレメンテスディシーの力、黒き精霊がもっとも純粋な暴力となって顕現した。


 そう。【死霊聖魔女王】ネクロディギス・マリーアを圧し潰さんと――そのに。





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