第119話 過去を。

「じゃあ、さよなら。ニーベリージュ。【聖光破斬シャイニング・エッジ】!」


 天高く陽が上り、時刻は昼を越えたグランディル山の頂の、いまやただの瓦礫跡と化した遺跡にて。


 【死霊聖魔女王】〝玩弄〟のネクロディギス・マリーアの異形の右腕から放たれる【光】の聖剣の必殺の一撃が肉薄するニーベリージュに向かって袈裟に振り下ろされる。


 それはまさしく直線状のすべてを呑みこむ巨大な【光】の帯。


「くっ……! 英霊よ! 私に力を!」


 あまりにも近い距離で放たれた破滅の【光】に、回避が間に合わないと踏んだニーベリージュが強く大地を踏みしめ槍斧ハルバードを大きく振りかぶる。


「はあああっ! 【焔霊スピリット――」


 ぶわり、とその全身にまとう青い霊火が槍斧ハルバードにすべて集中した。


「――断撃スマッシュ】!


 圧し潰そうとする巨大な【光】の帯にあらがうように、たなびく青い炎の一撃がぶつけられる。


 そして――


「ぐ、うああぁぁぁぁっ!?」


 その膨大な力と力の衝突に耐えきれず、ニーベリージュが吹き飛ばされる。


 地にたたきつけられたその体には衝突の余波で細かな裂傷が刻まれ、身にまとっていた青い霊火もほとんど失われていた。


「ぐ、うぅ……!」


「あら? いまので決めるつもりだったのだけど、運がいいわね? あな――!?」


 そのとき。【死霊聖魔女王】を囲む黒い火柱の一本がゆらりと揺れた。


 目の端でその異変をとらえた【死霊聖魔女王】がおそらくは半ば反射的に身を守るように大盾を動かす。



 ……気づかれたか! でも、かまわない! 僕の狙いも最初からその邪魔な大盾だ!


 前に出て戦うニーベリージュを隠れみのにして高速で突進していた僕は、黒刀の切っ先を高めた魔力ごと目の前のぶ厚い金属のかたまりへと向けた。


 ……聖騎士パラッド! あなたの自慢の鉄壁! いま僕が――


 瞬間。僕の脳裏に【光】の勇者パーティーで過ごした日々がよみがえった。ともに戦いながらも心はバラバラで、けっして互いに相容れることはなかった灰色の日々。


「レイス流暗殺術、奥義! 【虚影零ゼロハイド・突破ストライク】!」


 ――壊す!


 ピシ……!


 手に伝わる衝撃とともに、目の前に亀裂が走った。僕の過去の象徴のひとつが音を立てて砕け散っていく。


 そして、技の反動でがっくりとひざをついた僕がその砕けた過去の向こう側で見たのは――


「あら。せっかく手に入れたのに、もう砕かれちゃったわ。うふふ。そんな悪い子にはおしおきしてあげないとね? ノエル」


 大盾を握っていた【死霊聖魔女王】の左の黒い【死霊の手】からぞわりと【闇】が迸った。それは黒い霊火となり、凝縮し刃をかたちづくる。


「うふふ……! そんなところでうずくまっちゃって。そんなのでこれが避けられるのかしら? 【死霊魔剣デスブレイド】」


 くすくすと笑う【死霊聖魔女王】が異形の左腕で黒く禍々しい刃を振りかぶる。


 ――砕けた過去の向こう側で見たのは、いま僕へと襲いかかる現実の脅威だった。





♦♦♦♦♦


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