第102話 ひとつの再会とひとつの邂逅。※

「ふぉっふぉっふぉっ……! いやいや、こんな山の頂まで遠路はるばるよく来たのう……! 人間どもよ……! ふむ? そうじゃな? 来客には、茶でもだしてもてなすのがお主らの作法じゃとは聞いておるが、あいにくと儂はこんな体じゃから、たしなまぬしのう……? まあ自前のものがあれば、遠慮なくってもらってかまわぬぞ……! ふぉっふぉっふぉっ……!」


 ようやく朝陽が上りはじめたグランディル山の頂の遺跡にて。


 すりきれた黒い襤褸ぼろに身を包んだ、高笑いを上げる貧相ながらんどうの髑髏――今回の【死霊行軍デススタンピード】の元凶、【死霊魔王】〝玩弄〟のネクロディギス。


 ともすれば、矮小にすら映るその姿。だが、その身から発する【闇】の魔力はあの【死霊将軍デスジェネラル】をはるかに凌駕した絶大な、まさに世界に君臨する【魔王】の名を冠するにふさわしいもの。


「ふ。心配にはおよばないよ。【死霊魔王】〝玩弄〟のネクロディギス。補給も休息もここに来るまでに、すでに十分にとってあるさ。全力でお前と戦うためにね。当然だろ?」


 その【魔王】の存在感と魔力に気圧されることなく、立ち並ぶ【黎明の陽デイブレイク】4人のうちのリーダー、【光】の勇者ブレンは聖剣を抜き放ち、【死霊魔王】に切っ先を向けた。


「ほう……! それはそれは感心じゃのう……! ならば、こちらも遠慮なく全力で戦えるということかの……!」


「ああ。お望みとあらば、いますぐ始めようか……!」


 だが、いまにも斬りかかろうとするそんな勇者ブレンの気勢を【死霊魔王】はその骨の手を振って軽く散らした。


「ふぉっふぉっふぉっ……! そんな熱く見つめられては照れるのう……! じゃが、すまぬが先約があってな? おぬしたちの相手は、先にこやつにゆずらねばならぬのよ……! ほれ! さっさと来ぬか! おぬしの待ちびとじゃ! 【獣魔王】〝蹂躙〟のザラオティガ!」


「な……に……!?」



『グオオオオオオオオオオッ!』


 その、この場で聞くはずのない名前に、驚がくに目を見開く勇者ブレンの前に、重々しい音を立てて黒き獅子の巨躯が降り立つ。


『久方ブリダナ……! 【光】ノ勇者……! ソシテ、ソノ仲間タチヨ……!』


「まさか……!? 本当に【獣魔王】なのか……!?」


「そ、そんなはずはありませんわ……!? 【獣魔王】はわたくしたちが、たしかにこの手で……!?」


「へっ! いーや違うなぁっ! 4本あったはずの腕が2本しかねえし、さっきからひでえ臭いもプンプンしやがるぜ!」


「パラッド!? ……いや、そうか! こいつの正体は……!」


 叫ぶブレンに答えるかのように、黒き獅子の巨躯から腐った肉が滴り落ちた。


「ふぉっふぉっふぉっ……! よく気がついたのう……! 人間ども……! まあ、察しのとおりじゃ……! こやつは、この地に残っていた滅びたザラオティガの意思の残滓――つまりは死霊をもとに儂が組み上げた、いわば【屍獣魔王】とでもいった存在よ……! もちろん生前ほどではないが、それでもおぬしたちが屠ってきた【死霊将軍デスジェネラル】程度とは比べものにならぬほどの力を持っておるぞ……! ふぉっふぉっふぉっ……!」


『ソウイウコトダ……! 【光】ノ勇者ヨ……! スベテハ、我ヲ倒シタ貴様タチヘ再戦ヲ果タシ、打チ勝ツタメ……! ソノタメニ我ハコウシテ【死霊魔王】ノ軍門二降リ、地獄ノ淵ヨリ蘇エッテキタノダ……! ソノ果テニ、イカナル辱メヲモ受ケル覚悟デナァ……! サァ……! 存分二死合オウゾ……! 【光】ノ勇者ァ……!』


「ふ。いいだろう! 望むところだ! 【屍獣魔王】ザラオティガ! 俺たちがいますぐに地獄に送り返してやる! パラッド! 守りを! マリーア! 加護を! ステア! 援護を頼む!」


「おう!」 「ええ!」 「は、はい……!」

 


 【光】の勇者ブレンが率いるパーティーと、【獣魔王】との戦いがいまここにふたたびくり広げられる。


 だが、その結果は全く違ったものとなるのだった――彼らが失った、たったひとつの要因によって。


 【闇】属性の暗殺者ノエル・レイス。


 自分たちにとってのその価値と意味をまもなく彼らは知ることになる――だが、そのときにはもうすべてが、遅い。





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