第77話 その雨。
『邪魔をする』
ガシャ、ガシャ。
午後の冒険者ギルド。
独特の金属音を響かせて、頭から足先まで完全に覆った細身の黒い全身鎧をまとった長身の冒険者が悠然と歩く。
顔まで完全に覆った兜の中で反響するのは、どこか涼やかで凛とした声。おそらく中身は女性だろう。
空気がピン、と張りつめていた。さっきまで併設された酒場で騒いでいた冒険者たちやギルド職員を含め、だれひとり微動だに、声を発することすらしない。
それほどにあてられていたのだ。このまちがいなく【闇】属性であろう黒い全身鎧の女性の醸しだす、常日頃戦いに身を置く冒険者からしてもありえない怖気のするほど濃厚な死の気配に。
な、なにものなんだ……!? この
いや、正確にいえばひとつだけ心あたりはあるけど、でも、それは
そんなことを考えているあいだに黒い全身鎧の女性は僕の横を通りぬけ、すぐそばで受付のフェアさんと話をし始めた。
「お、おひさしぶりです……! ニーベリージュさん……!」
『ああ。久方ぶりだな、フェア。息災そうでなによりだ。冒険者登録では世話になった。あのときもいまも、怖がらせてすまない。だが思ったとおり、やはり君以外では話もできなさそうだからな。今日もよろしく頼めるか?』
「は、はい……! もちろんです……!」
黒い全身鎧の女性――ニーベリージュにそういわれて見渡せば、フェアさん以外のギルド職員はけっして目をあわせようとすらせず、ただ青ざめた顔でうつむいていた。まるでいま目の前にある死の恐怖をやりすごそうと祈るかのように。
もちろんフェアさんも恐怖していないわけではない。なんだか口調がたどたどしくて上ずっているし。
だが、あのとき暗殺者としての僕を受け入れてくれたように、目の前のニーベリージュに必死に向き合おうとしている。
ニーベリージュもそんなフェアさんを好ましく思っているように僕には感じとれた。だって、ギルドの中に入ってきたときよりも顔まで覆った兜の中で反響する声がどこか優しく聞こえたから。
……だが、そんな僕の感想も次のニーベリージュの行動でかき消えることになる。
『ありがとう。では、これを見てほしい』
いうが早いか、ニーベリージュは腰に提げた指輪から、僕の腕輪と同種の魔力式を展開。
亜空間収納からぎっしりと中身のつまったひと抱えほどもある大きな袋を5個とりだすと、それを次々に空中に放り投げ――手にした
「「「きゃああああああぁぁぁっ!?」」」
「「「うわああああああぁぁぁっ!?」」」
その袋から降ってきたものを見て、老若男女関係なしにギルド中が等しく悲鳴を上げる。
それは、バラバラになった骨と腐肉と臓物の雨だった。……優に数百体ぶんはあろうかというほどの。
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