第45話 真の仲間。
「ほ、ホントにごめんね? まさか、ひとを下じきにするなんて思わなくって……。って君、聞いてる? おーい?」
冒険者ギルドのクエストボードの前。
なんだか頭がふわふわとしていた。
うっすらと目の前で、僕より少し背の低い薄桃色の髪の女の子が手を振っているのが見える。
僕の脳裏にはさっきの衝撃と、あの娼館での出来事がよみがえっていた。
『ねえ、ノエルくん……? ロココちゃんがお風呂から出るまでまだだいぶ時間あると思うし……? どう? それまでお姉さんがサービスしてあげちゃうけど……?』
耳元で吐息とともにささやかれた女主人リスティさんの甘い誘惑。それといっしょに僕の腕にたゆんと押しつけられたふたつのやわらかなふくらみ。
そして、さっき僕の顔を包んだ感触は、あのときよりも――
「……ノエル?」
――くいくいとコートの袖を引っぱられ、ハッと我に返る。
な、なにを考えてるんだ!? 僕は!? い、いま大事なのはそんなことじゃないだろう!?
……そうだ、そうだよ。いま大事なのは、僕の気持ちをこの娘に伝えることだ。【
「あの、僕――」
「ひゅー! うっらやましいねー、ボクちゃん! まさかディシーちゃんの超絶おっぱいに上から顔挟まれるなんて、超超超絶ラッキーじゃん?」
「リ、リーダー!? なに言ってるの!?」
だが、決意を固めて僕が口を開こうとした瞬間、後ろから男の声が割って入った。なんていうかニヤニヤとしていて服装も着崩し、香水でもつけているのか甘ったるいにおいを体からさせた、ひと言でいうと軽薄な感じの。
だが、いま話しかけられた顔を真っ赤にした女の子――ディシーとその男のやりとりは親しげなものだ。
……え? ていうか、いま
「ぎゃははは! そんなに怒るなって、ディシーちゃん? でもオレがこっち来てよかったよー? さっきから見てたらさぁ? ボクちゃんって、ひょっとしてディシーちゃんをパーティーに誘おうとか思ってたりしない? だったらさぁ、ここはリーダーのオレがしーっかり釘を刺しておかないとねぇ?」
ビッ! とゴテゴテとした指輪のついた手が僕を指さす。
「ざーんねんながら! ディシーちゃんはすでにー! オレたち【
「ふぇっ!? え、えーっとまず確認なんだけど、ほ、ホントに君たちもあたしを仲間に入れたいって思ってくれたの……?」
おずおずと上目づかいに尋ねてくるディシー。けど僕はなんて言っていいのか言葉がでてこなくて、ただだまってこっくりとうなずいた。
「そっか……。なら、ちゃんと答えてあげないとだね。あのね? 君たちも【闇】属性だよね? ならわかると思うんだけど、あたし、この街に来てもう一週間になるけど、ぜんぜんパーティー組めなくて……。やっぱり【闇】属性だとだめなのかな? って。そんなとき、ついさっきこの【
緑色の瞳をキラキラとさせて語るディシーに、ふたたびリーダーの男が割って入った。
「いやー、そんなに褒められると照れるねー! ところでさぁ、ディシーちゃん? そろそろ行くクエストは決まった?」
「あ、ううん。まだちょっと……。やっぱり最初の記念になるから、大事に決めたいなって……」
「オイオイオイ! あんだけ待たせておいてそりゃないよ、ディシーちゃん! こういうのはさぁ!」
もじもじと恥ずかしがるディシーをしり目に、ビッ! と見もせずにリーダーがクエストボードから乱暴に紙を一枚引きはがした。
「どうせ今夜の歓迎イベントのための景気づけなんだし、パーッと決めて、パーっとやっちゃえばいいんだって! ったく! なにをトロトロしてやがんだと思ったら!」
「う、うん……。ごめん……なさい……」
これが、属性なんて関係なしに深い絆で結ばれた真の仲間……?
僕がする前にすでに終わっていたパーティーへの勧誘。けれど、ディシーの思いをいともたやすく蔑ろにするその男の態度に僕は不快感を覚えずにはいられなかった。
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