第43話 願い。
魔力により強化されたものは、それが肉体にせよ武器にせよ本来の性能を大きく超える力を持つ。ただ、それはごく一時的なことだ。
ただし例外がある。それが永続強化素材。大量の魔力を長時間注ぎ続けることで物体の構造そのものを組み換える。潤沢に魔力を含んだ強力な素材に。
だがもちろん誰にでもできることじゃない。まず前提として大量の魔力、精密な魔力操作、そして長時間魔力を注ぎ続けるための強靭な精神力が必要とされる。そう。鍛錬を積み、そのための技術を磨き上げてきた職人か――ちょうどかつて凄腕の冒険者だっただろうサーシィさんのような。
ただ、それじゃあむしろ……。
「サーシィさん。100万
その2倍、いや3倍はとってもいい気がする。魔力とは、それほどの価値があるものなのだから。だが、カウンターの向こうのサーシィさんは僕に向かってゆっくりと首を振った。
「いえ。先ほど申し上げたとおり、素材はウチで飼ってるミルクちゃんから採取したものですから手間はかかりませんし――それになにより、いまのわたくしの願いは、ひとりでも無為に命を落とす冒険者が減ることですから」
カウンターの下、サーシィさんがそっと右足に手を伸ばしているのに僕は気づいた。その眼鏡の奥の赤い眼光は確固たる意志を宿している。
……かつてサーシィさんになにがあったのか僕はなにも知らない。けど、このひとは信じられると、思った。このひとに頼りたいと、思った。
だから、僕は。
「ロココのために本当にありがとうございます。サーシィさん。ありがたく100万Lでこの【
カウンターの向こうのサーシィさんに向かって、深く深く頭を下げる。そして。
「また、来ますね。サーシィさん。どうか僕とロココの――【
「またね。サーシィ」
ひとつ吹っ切れた僕が笑顔を、ロココがはにかんだような笑みを見せると、
「はい。いつでもお待ちしています」
サーシィさんは眼鏡の奥の赤い瞳に優しい光をたたえ、僕たちに向かって赤く塗られた唇を上げ、にっこりと微笑んだ。
「あ。そういえばさ、サーシィさん?」
「はい? なんでしょう?」
支払いを終え、帰る前にふと思いついたことがあった僕は、せっかくなのでサーシィさんに聞いてみることにする。
「いまロココが着てる【
傍らのロココを見つめてみても、どう見ても普通のケープマントだ。色が純白だから【白妖精】はともかく、特に【六花】なんて言葉が入る要素は見あたらない。
「ふふ。そうですね。いまわたくしがそれを口にするのは少々野暮ですし、ひと言だけ」
「え?」
「ノエルさま? あまり見惚れないようにお気をつけくださいね? それでは今度こそ、わたくしサーシィは、ノエルさまがた【
そんな謎めいた言葉といたずらっぽい笑みを残して、サーシィさんは最後に深々と僕たちに向かって頭を下げた。
♦♦♦♦♦
本作を面白いと思って頂けましたら、是非タイトルページで☆による評価、作品フォローや応援をお願いいたします!
読者様の応援が作者の活力、燃料です!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます