第29話 もう一度、約束を。

「……ノエル、遅い」


 高級食事処の店内。


 どことなくムードのある感じにほどよく照らされた用意された個室に入ると、むう。と頬をふくらませたロココが僕を迎えてくれた。


 艶めいた輝きを見せる長い銀の髪と白のミニドレスをまとったその姿は、どこからどう見てもどこかの貴族か豪商かのお嬢さまだ。まあ褐色の肌のお嬢さまってのは、この王国にはまだいないだろうけど。


「ごめんごめん! トイレ混んじゃっててさ! ……って、あれ? どうしたの、ロココ? わざわざ近づいてきちゃって?」


 謝りながら僕が対面の席につこうとする間際、立ち上がったロココがすっと僕に近寄ってきた。それから、僕の手を両手でぎゅっと握りしめる。


「なにかあったのかと思って、心配……した」


 うつむいたまま、消え入りそうな声でロココはそうつぶやいた。その表情はちょうど髪に隠れて見えない。



 ……僕は、軽く考えすぎていたのかもしれない。


 きっとロココにとっては初めてなのに――いや、僕だって本当の意味では初めてだ。こうして仲間とテーブルを囲むなんてこと。なのに、いつまで待っても僕が来なければ、不安にだって当然なるよ。


「ごめんね、ロココ。でも、大丈夫。約束しただろ? 同じテーブルでいっしょに美味しいものを食べようって。僕は仲間との約束はぜーったいに破らないよ?」


「ノエル……。うん、約束」


 潤んだ青い月のような瞳が僕を見つめていた。僕は照れ隠しに少しだけ茶化しつつ、お互いの指を絡める。こうして僕は、ロココともう一度約束を結んだ。



 それからふたりして対面の席に座りあう。

 ようやく人心地ついた僕は、さっきから気になっていたことをロココに尋ねた。


「ところでさ、ロココ? 店員さんもういないみたいだけど、もしかして注文ってもう済んだの?」


「うん、ノエル。ロココ、メニュー? とかってよくわからないから、おすすめされたもの全部お願いしておいた」


「へえ。店員さんのおすすめかあ。なら、安心かな? こんな立派なお店ならどれも美味しいだろうし、そんなに大きく外れたものは……え? ……?」


「うん。きっと、全部ごちそう……! 楽しみ……!」


「ああ、うん……。そ、そうだね……? 楽しみ……だね。はは……は」


 当然僕は、頬を紅潮させ笑みくずれるロココには、このあとの支払いと胃袋の具合が気になるなんて本音は言えず、ひとりそっと財布とお腹をなでるしかなかったのだった。





♦♦♦♦♦


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