2章 初めての仲間と。
第20話 街の現実。
「ブッフォォッ!? ま、待て!? ノエル・レイスゥゥゥッ!」
どうやらちゃんと僕の名前を覚えたらしい【猟友会(ハンターズ)】のリーダー、ブッフォンの絞り出すような絶叫を遠く後ろに聞きつつ、腕にロココを抱きかかえた僕は一路【妖樹の森】の出口を目指す。
「う、うゅ……!?」
いまは夜じゃないから、わざわざ【隠形】なんて面倒なものは必要ない。ロココもいるしね。僕は脇目も振らずただ一気に森の中を駆け抜ける。
裏の世界では名の知れた代々続く暗殺者一族、それがレイス家。その跡取りとして鍛えられた僕の能力。迅速な判断力と広い視野、すばやい身のこなし。それと時に自分と別の場所に相手の注意を向けさせる技術。そのすべてを最大限に使って。
『ウォン?』
魔狼たちの嗅覚を。
『ギィ……?』
妖樹(トレント)たちの魔力感知を。
『キィェェッ……?』
空からの怪鳥の目を。
時に速さで置き去りにし、時に誤認させ、時にかいくぐり、時にほかに注意を向けさせて気づかせず。
そして僕たちは【妖樹の森】を抜けた。
いっさいの戦闘行為をすることなく。
「ん、んゅ……!」
高速で駆け続ける僕の首に華奢な細い腕がさらに強く絡みつく。
【妖樹の森】を抜けたあとも、僕はロココを下ろさなかった。それは、少しでも早くロココを街に連れてってあげたかったから。美味しいものをお腹いっぱい食べさせて、体を綺麗に洗ってあげて、服も買いなおして、やわらかな布団のあるベッドで休ませてあげたかったから。
……けど、ときにポーションで体力を回復しながらそうして数時間ほどひた走り、ロココたちがそこから来たというそこそこ大きな街――【リライゼン】にたどりついた僕は、現実を思い知ることになる。
結論から言えば、僕とロココを受け入れてくれる宿も食事処もどこにもなかった。
主な理由は、ロココのにおい。ずっといっしょにいてだいぶ慣れてきた僕はともかく、ほかの人からすればありえないほどひどいらしい。僕は絶対に認めるつもりはないけど、それこそ『洗っていない犬のようなにおいだ』と僕たちを門前払いした宿の主人が吐き捨てるように言っていた。
しかし、こうなったらいいよいよ、まずロココの体を綺麗にしないとなにもはじまらない。
「ノエル……。ごめんなさい、ロココの……せいで……」
「はは。なにを言ってるのさ、ロココ。なにも心配いらないよ? ちょっと待ってて。いま、どうするか考えるからさ」
この街に入ってから、僕の黒コートを羽織らせていたうつむくロココの頭をポンとたたきながら、キョロキョロと街を見まわし、考えをめぐらせる。
どうしよう? 風呂つきの宿がだめとなると公衆大浴場か? でも、あそこは当然だけど男女別れてるから僕の目も届かないし、いろんな客層がいるから危険かも? 宿や食事処みたいに入り口で門前払いを食らうかもしれないし。
でも、もうほかに思いあたるところなんてないしなあ。この街のそばを流れる川は沐浴禁止だし、泉とかもこの近くにはないし。あとは――あ!? も、もしかして、あそこなら!?
ぐるりと街を見まわした僕は、普段なら無意識に避けているだろうあたりに目を向けたとき、ふとそれを思いつく。
「ロココ! いくよ! ちょっと恥ずかしいけど、きっとあそこなら受け入れてくれる!」
「あそこ……?」
きょとんと首を傾げるロココの手を引っぱりながら、僕は一路目的地を目指した。
「は~い。いらっしゃいませ~。あら、可愛いお客さんね~? うふふ~、ねえボク? お姉さんといいことしにきたのかな~?」
「こ、こ、こんにちはっ! は、はいっ!? い、いや違っ!? そ、そうじゃなくてっ!? あ、あのっ! お、お願いがありますっ! こ、この娘を洗ってくれませんかっ!」
数十分後、ロココを連れた僕は真っ赤な顔でどもりまくって、高級娼館の扉をたたいていた。
♦♦♦♦♦
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