第19話 出発。

「ブフォフォフォォォッ! 笑わせるっ! 忌むべき魔物と同じ、他の属性よりも圧倒的に劣等の【闇】属性のお前たちが英雄になるだとっ!? そんなことがありえてたまるかぁっ!」


  すっかり高くなった日の光が差しこむ【妖樹の森】の中の開けた広場。


 土と草と鼻水とよだれまみれになりながら、這いつくばったままずりずりと僕たちのほうを目指す【猟友会(ハンターズ)】のリーダー、ブッフォン。その血走った目が憎々しげに僕たちを見上げていた。


 傍らのロココの小さな体を抱きよせながら、僕は敵意をもって正面からその瞳をにらみ返す。


「ねえ、ブッフォン。さっきから劣等劣等ってうるさいけどさ。【大妖樹(ギガントトレント)】を倒したのは、僕とロココなんだけど、それはどう思ってるの?」


「ブフォッ……!? そ、それは……!」


 痛いところを突かれたのか、ブッフォンが言葉を詰まらせる。それにかまわず僕は続けた。


「僕たち【闇】属性は生まれながらの劣等なんかじゃない。それを必ず僕たちを見下すあなたたちにも、そしてこの世界にも思い知らせてあげるよ。誰も文句のつけようがない目に見える結果をもって」


「ブブフォォ……」


 決然と言い放つ僕の迫力に押されたのか、ブッフォンがさっきまでの勢いを失くして完全に押し黙った。


 もうそろそろいいだろう。最後に言いたいことを言って、僕はこの場を去ることに決めた。


「最後にもう一度言っておくよ、【猟友会(ハンターズ)】。お前たちは僕とロココの、【輝く月ルミナス】の敵だ。今後、正面から向かってくるなら徹底的にたたき潰す。だがもし汚い手を使ってくるつもりなら、いま以上の目に遭わせてやる。僕の一族の名前、【生霊(レイス)】の意味を身をもって教えてやるよ」


「ブ、ブ、ブフォォ……!」


「「「「ひぃぃぃぃっ!?」」」」


 威圧感をもって睨みつけながらの僕の警告に、ブッフォン以外の【猟友会(ハンターズ)】の面々が這いつくばったままで縮み上がった。


「ノエル……?」


「お待たせ、ロココ。それじゃあ街に帰ろう。急ぐから、しっかり僕につかまっててね?」


「う、うん……」


 これだけ脅しておけば十分だろう。僕は【猟友会(ハンターズ)】から視線を逸らし、寄り添うロココを腕に抱きかかえる。一瞬戸惑った様子を見せたロココだったが、おずおずと僕の首にその華奢な腕をまわしてくれた。



 その虐げられたもののみが放つにおいを肺腑に吸いこむ。


 僕はこのにおいを決して忘れない。それとともに感じたこの怒りを、悔しさを。そして、僕が大切にするんだ。ロココを。僕に一歩を踏みだす勇気をくれた、この青い月のような瞳を持つ少女を。


「じゃあ、行くよ! しっかりつかまってて! 舌、噛まないようにね!」


「う――うゅ!?」


 そして僕は爆発的な魔力を足にこめ、一気に森の外へと向かって駆けだした。




♦♦♦♦♦


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