第12話 告白。

 【妖樹の森】の中の泉のある広場。



「え……? あなた、だれ……?」



 大木からの飛び下りざまに、少女に向かっていた【大妖樹ギガントトレント】の枝を斬り落とし、着地した僕を真ん丸に見開かれた青い月のような瞳が見つめる。



「僕はノエル・レイス。君と同じ【闇】属性で、暗殺者。遅くなって、ごめん。……君を助けに来たんだ」


「ノエ……ル……? 助け……に……?」


 いまのいままで孤立無援でいた少女には、きっと想像もしなかった言葉なのだろう。


 僕の言葉を時間をかけて理解しようとするかのように、少女は何度も目を瞬かせた。


 そんな少女に向けて、僕は精いっぱいの笑顔をつくる。


「そう。助けに来たんだ。戦う君を見て、助けたいと思ったんだ。ねえ。よかったら、君の名前も聞かせてくれる?」


 やはり何度か目を瞬き、銀色の長い髪をさらりと揺らし一度うつむいてから、呪紋使いカースメーカーの少女はやがてこっくりとうなずいた。


「ロコ……コ……」


「ロココか。うん、いい名前だね。じゃあ、ロココ。さっそくだけど、僕から君に提案とお願いがあるんだ」


「提案……? お願……い……?」


「うん。提案はね。この窮地を打開するために僕と協力してくれないかな? あの【大妖樹ギガントトレント】を倒すために。君と僕の力をあわせれば、きっとできると思うんだ」


「え……? それが、できる……なら……」


 呪紋使いカースメーカーの少女――ロココはまた目を瞬いてから、やがてこっくりとうなずいた。

 

「よかった。それから、お願いはね」


 ロココに向けてにっこりと微笑んでから、すう――と大きく深呼吸。



 なにせこれからいうことは、僕にとって生まれてはじめての、とてもとても大切な告白なのだから。


「ロココ。この窮地を無事に乗り切れたらさ、僕とパーティーを組んでほしい。いま君がいる【猟友会(ハンターズ)】みたいのじゃなく、対等の仲間として。僕がいまよりも幸せにするって約束するよ。同じテーブルでいっしょに美味しいものを食べてさ。お風呂で疲れを癒して、温かいベッドで眠って、そして――困ってるひとを助けて、僕といっしょに表舞台で脚光を浴びよう」


 きっと、声は上ずっていたかもしれない。もしかしたら顔は真っ赤になっていたかもしれない。


 でも、伝えられたはずだ。僕にとって精いっぱいの心からのロココへの告白。



 それはたぶん、ほんの数秒。

 でも、僕にとっては永遠にも等しい時間が流れたあと、ロココはやがてそっと口を開いた。


「……うん。ロココ、ノエルといきたい」


 褐色の肌にほんのりと朱が差し、蕾(つぼみ)が花開くような、そんなとびっきりの笑顔を添えて。


「ありがとう。じゃあ、まずこれを飲んで体力と魔力を回復しておいて。それと、もう少しだけ【大妖樹ギガントトレント】たちの動きをおさえててくれる?」


「うん、わかった。お薬ありがとう、ノエル」


 渡した上級ポーションをこくこくと飲むロココを横目でちらりと確認。



 それから、愛用の黒刀を右手にかまえ、すっと瞳を閉じて頭の中に軌跡を描く。



 これで使えるは7から13まで増えた。少し手順は複雑だけど、これだけあれば届くはずだ。



 さあ、いくよ。【大妖樹ギガントトレント】。そして、それ以上に【猟友会ハンターズ】。



 お前たちが犬コロのように虐げ続けたロココの受けた仕打ち。いまその身に存分に味あわせてやる。



 僕の中のなにかが軋みを、咆哮を、産声を上げる。


 いま、その怒りを、猛りを、すべてをぶつけるときが来た。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る