第11話 輝き。

 ズグリ、と僕の中のなにかが痛み、軋み、悲鳴を上げる。


 【妖樹の森】の中の泉のほとりの開けた広場。


 その泉のすぐばにある高い木の上で気配を殺してたたずむ僕。


 その眼下には、ただ独り絶望的な状況で矢面に立たされ、ぽろぽろと涙を流しながらも妖樹トレントと【大妖樹ギガントトレント】の動きを必死におさえ続ける、僕と同じ【闇】属性の呪紋使いカースメーカーの少女。


 そして、その彼女の奮闘を嘲笑うかのように約束したはずの報酬の食料を奪い、撤退をはじめる彼女以外の【猟友会ハンターズ】のメンバー。


 なんだ? なんなんだよ、これ? ねえ、君は本当にそれでいいの?


 捨て石にされて、報酬すら奪われて、それでもそのパーティーに死ぬまで尽くすっていうの? どう見ても君はもう長くはもたないじゃないか……! 勝ち目なんてないっていうのに、なんで……!


 【闇】だから? ほかにいくところがないから? だから、耐えなきゃいけないの? どんな目に遭っても、死ぬまで、君は、は耐え続けなきゃいけないの?


 だって、このままじゃ本当に犬死に――



穿うがち、えぐれっ……!」



 ――そのとき。少女の叫びとともにぶわりとぼろぼろのマントがふたたびひるがえり、その露わになった褐色の肌に刻まれた赤い紋様が輝きと数を増して、【大妖樹ギガントトレント】へといっせいに襲いかかった。


『ギュィィィィィィ……!?』


 少女の伸ばした赤い呪紋の鋭い先端はことごとく口を模した【大妖樹ギガントトレント】の虚へと突き刺さり、削り、徐々に徐々にその内部へと潜りこんでいく。



 え!? あれって、まさか!? まさかあの娘、核を狙ってっ!?



「死なない……! 生きる……! だから、抉れぇぇぇっ!」



 ああ。僕は、なにを見ていたのだろう? なにを勝手に勘違いしていたのだろう?


 あの娘は、あきらめてなんていなかった。


 いまもなお、この孤立無援の絶望的な状況の中で必死にあらがい、生き残る道を探し続けている。


 それは、その姿は。生きようとあがき続けるその姿は。未来を切り拓こうとし続けるその姿は。


 とても、とてもまぶしく見えた。とても、とても輝いて見えた。


 僕にとって、いままで見た誰よりも。



『もしあてがないんなら、僕のパーティーに入らないか? 【闇】属性? はは。遠慮することはないさ。



 そう。あの偽りの笑顔を浮かべて僕を誘ってきた【光】の勇者よりも、ずっとまぶしく――



 ザンッ!



 ――気がつけば、体が動いていた。


『ギュィィィィァァァッ!?』


「……え? だ……れ……?」


 枝を斬り落とされた【大妖樹ギガントトレント】。口を模したうろが悲鳴に似た響きをあげる。


 少女の真ん丸に見開かれた青い月のような瞳が僕を見上げていた。



 振り下ろした刃とともに、僕の中のなにかが軋みを上げる。痛みでも悲鳴でもなく、咆哮とともに。


 熱い、熱いなにかが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る