ケリーの章 ② 待ちわびていたプロポーズ
「ヨハン先生…」
悲しげなヨハン先生を見ていると私まで辛くなってしまう。するとヨハン先生が慌てたように言った。
「あ…ごめん。ケリーだって十分辛いのに…悪かったね。僕は医者という立場にありながら…あの日から、アゼリアが亡くなった命日が近づいてくる度に後悔してしまうんだよ。もっと僕に医学の知識があれば…ひょっとするとアゼリアの病気を治して上げられたんじゃないかなって…今も元気に生きていられたんじゃないかと思うと…」
ヨハン先生は声をつまらせた。
「ヨハン先生、元気を出して下さい。アゼリア様はヨハン先生の最初におっしゃった余命を4ヶ月も多く生きたのですよ?余命が伸びたのも…ウォルター先生とヨハン先生のお陰だと私は信じています」
きっぱり言うと、ヨハン先生は寂しげに笑った。
「ありがとう、ケリー。それじゃ僕も診察室を片付けてくるよ。そしたら2人で一緒にお茶を飲もう」
「はい、ヨハン先生」
ヨハン先生は笑みを浮かべると、再び診察室へと戻って行った。その後姿は…酷く寂しげで、私の胸がキリキリと傷んだ。
私だってアゼリア様が亡くなってとても辛い。だってあの時、町でアゼリア様に出会って…専属メイドとして雇って貰えていなければ…私はあのままどこかでのたれ死んでいたかもしれない。今、私がこうしていられるのも全てはアゼリア様のお陰なのだから。そしてヨハン先生は自分が主治医だったから…アゼリア様を失った悲しみは私以上に辛いのかも知れない。ううん、それだけじゃない。だって私は知っているから。ヨハン先生は…本当はアゼリア様の事がずっと好きだったとう事実を…。
「片付けの続き…しなくちゃ…」
ヨハン先生をお待たせしない為に…私はテキパキと片付けを再開した―。
****
「うん、美味しい。ケリーはすっかりハーブティーを煎れるのが上手になったね」
ヨハン先生が笑みを浮かべながら言う。
「本当ですか?師匠であるヨハン先生に褒められるなんて嬉しいです。今お食事の用意を致しますね」
飲み終えたカップを持ってガタンと席を立つ私にヨハン先生が言った。
「あ、ケリー。今夜のメニューは何だい?」
「え…?シチューですけど…?」
首をかしげながら返事をするとヨハン先生が言った。
「ケリー、シチューなら明日の夜にしないかい?今夜は2人で一緒に食事に行こう」
「え…?食事…ですか?」
突然のヨハン先生からの食事のお誘いに…私の胸は密かに高鳴った―。
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