余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈

ケリーの章 ① 待ちわびていたプロポーズ

 ヨハン診療所―


「ケリー。次の患者さんを呼んでくれるかい?」


白衣を着たヨハン先生がカルテを見ながら声を掛けてきた。


「はい、分かりました。次の方はモーリーさんでしたね?」


「ああ、そうだよ。頼む」


「はーい」


そして私は診察室の扉を開けると、待合室に元気よく声を掛けた。


「モーリーさん、どうぞー」



****


「はい、モーリーさん。こちらが今日のお薬になります。お会計は50オルトになります」


受付のカウンター越しに今年65歳になるモーリーさんにお薬を渡す。


「どうもありがとうございます」


モーリーさんは50オルト支払うと、突然手招きしてきた。


「?」


何だろう?モーリーさんに顔を近づけると、突然耳打ちされた。


「ところでケリーちゃん。ヨハン先生とはどうなってるの?」


「え?どうなってるって…?」


一体何のことだろう?首を傾げるとモーリーさんが笑みを浮かべた。


「何言ってるの。ヨハン先生とケリーちゃんは恋人同士なんでしょう?」


「え…ええっ?!い、一体どこの誰がそんな事をっ?!だ、大体私とヨハン先生はそんな関係ではありませんよっ?!」


私は驚いて目を見張ってしまった。


「あら、何言ってるのよ。ここの診療所に来ている患者さん達は皆そう思ってるのよ?」


「そ、そんな…。いいですか、ではこの際だからハッキリ言っておきますが、ヨハン先生に私みたいな学が無い人間は勿体ないです。それにヨハン先生には忘れられない方がいるのですからね」


「忘れられない方…?それは一体誰なのかしら?」


モーリーさんが首を傾げる。


「そ、それは…その…」


そこまで言いかけた時、扉が開いて次の患者さんが現れた。


「あ、こんにちは。ラモンさん」


そしてモーリーさんに言った。


「モーリーさん、早く家に帰らないとお嫁さんが心配しますよ?この間も帰りが遅いのを心配して迎えにきたじゃありませんか」


「ええ、そうね…もっとケリーちゃんとお話したかったけど…帰るわね」


「はい、お大事にどうぞ〜」


そして私はラモンさんから診察券を受け取ると、カルテの準備を始めた―。




****


 午後6時半―


本日最期の患者さんが帰り、待合室の片付けをしているとヨハン先生が現れた。


「お疲れ様。ケリー」


「あ、お疲れさまでした。ヨハン先生。今、お茶をお淹れしますね。厨房で待っていて下さい」


すると不意にヨハン先生が神妙な顔で言った。


「ケリー…もうすぐアゼリアの3回忌がやってくるね…」


その声は…酷く悲しげだった―。


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