第4話 バッドエンドの誘惑(楽園の王は目前に)
俺の上で、京香が息を切らしながら身体を上下に揺らしている。
下から俺が京香の形のいい胸の先端に触れると、京香は切なげな声をあげて頭を左右に振る。
「皆の憧れの生徒会長が、会長室でこんな事してるなんて知ったらどうなるでしょうね」
「ん、あっ、そんな事、言わないで、ああっ」
真昼の生徒会長室。
そのソファーに仰向けになった俺の上では制服をはだけさせた京香が身体を捩らせながら嬌声を上げていた。
私立北条高校で生徒会長を務める聡明で成績優秀、容姿端麗な全校生徒のアイドルは、いま俺のものになろうとしていた。
笑顔の裏に隠されたある秘密を知った俺は京香に接近し、そして遂にその身を俺に捧げさせたのだ。
「ひどいっ、でも、はあっ、沢木君のことが、好き。好きなの!」
「俺だって、京香先輩のことが、好きだ。壊したくなるくらい!」
俺達の昂りは頂点に達し、やがて同時に果てた。
力尽き崩れ落ちた京香の身体を抱きしめる俺の脳裏に、言葉が入り込んで来る。
『あなたが神無月京香と結ばれたその時、園崎彩矢は暴漢に襲われ死亡しました BAD END』
※※※
目が覚めると、そこは騒がしい教室の中だった。
再び9月20日に戻ってきた。
俺はさっきまでの京香との情交の様子を思い出し、心の内で密かに楽しむ。
京香のルートは、このゲームの中でも弥生先生と双璧を成す背徳感の高いシナリオだ。
最初の遥から始まり、俺は延々とバッドエンドを繰り返していた。
ヒロインである彩矢のことも気にはなったが、サブヒロイン達とのバッドエンドの魅惑の前にはそれも霞みそうになる。
このゲームではバッドエンドを迎えても特にペナルティーはなく、ただ最初に戻るだけだ。
メインヒロインを攻略すれば「元の俺」の人生が良い方に分岐するらしいが、ここに居続ければ最高のバッドエンドをいくらでも体験する事ができるのだ。
そのサブヒロイン達は11人まで集まり、ルートは完璧に覚えている。
今ではその時の気分で誰かを選んでは結ばれることを繰り返していた。
もはやハーレムと言ってもいいこの楽園をすぐに去る理由があるだろうか。
――本当に飽きたらヒロインルートを攻略すればいい。
俺はそんな風に考えるようになっていた。
これまで俺が攻略したサブヒロインはこの11人だ。
四人目ぐらいを攻略した頃に気づいたのだが、メインヒロインの園崎彩矢以外のサブヒロインは姓に和風月名が付いている。
その法則でいけば、あともう一人長月(九月)のサブヒロインがいるはずなのだが、今のところ見つけられていない。
現時点で一番最後に攻略した神無月京香も相当な難度だったから、おそらくそれ以上の難度なのだろうと思っている。
最近の俺の興味はこの最後の長月にあるのだが、同時に手詰まり気味でもあった。
やれる事はほぼやり尽くした感があるがルートの糸口が見つからないのだ。
まだやってない事なんて…………。
「あ!」
俺は重要な事を思い出した。
まだやっていないこと、それはメインのヒロインルートの攻略だ。
長月はヒロインルートの進捗によって現れるのかもしれない。
そう考えた俺は今回はヒロインルートの攻略を進めることに決めた。
放置してあるとは言っても、主にサブヒロイン攻略の過程で序盤のルートは既に把握している。
俺は遥やマリアの誘いを断り、彩矢が教室から出て行くと続いて廊下へ出る。
途中で見つけて拾った誰かの靴箱のカギは事務室に預けず、最短距離を昇降口まで走れば靴箱の前で困っている彩矢と話が出来る。
「あれ? 園崎、何か困っているのか?」
「あ、沢木君……。実はどこかで靴箱のカギを落としてしまったみたいなの」
「それってもしかして、これ?」
俺が拾った靴箱のカギを見せると、彩矢の表情が輝いた。
「あ、それ! どこで見つけたの?」
「園崎が歩いていった後に廊下にあったから、もしかしてと思って走ってきたんだ」
「ええ!? わざわざありがとう」
「大したことないよ、それじゃ」
教室へ戻ろうとする俺に背中から彩矢の声がする。
「待って! 沢木君、途中まで方向一緒だったよね。良かったら一緒に帰らない?」
目の前にウインドウが現れた。
『もちろん。一緒に帰ろう』
『いや、他に約束があるから』
当然、一緒に帰る方を選ぶ。
「良かった、じゃあ正門の前で待ってるね」
そう言うと彩矢は正門に向かって歩いていった。
さて、現時点で俺が把握している彩矢のルートはここまでだ。
なぜならこれまでは彩矢を無視して別の子のところに行っていたからだ。
自分を待つ女の子を放置するとは考えてみたら酷い話だが、今日はちゃんと正門へ向かう。
正門の彩矢と交流し、話をしながら一緒に帰り道を歩いた。
途中で何度か選択肢が現れ、無難と思える方を選択しているうちに俺と彩矢の帰る方向が
別れる場所まで来た。
「沢木君とこんなに話したの初めてだね。あの……よかったらまた一緒に帰らない?」
少し頬を赤らめて彩矢がそう言うと、俺の目の前にウインドウが開いた。
『ああ、また一緒に帰ろう』
『うーん、もういいかな』
一日目ぐらいは進めておいてもいいだろう。
そう思って『ああ、また一緒に帰ろう』を押したその時だった。
「あっ、彩矢! 彩矢も今帰り? ちょうどよかったー」
近所の女子高の制服を着たポニーテールの女の子がこっちに向かって手を振りながら駆け寄ってくる。
「
姫乃と呼ばれた女の子と彩矢はお互いの手を握りあって喜び合っている。
「――で、彩矢、そっちの男子は誰かな。もしかして、彼氏?」
「ち、違うよ。沢木君は、クラスメート。うん」
姫乃は興味深そうに俺を観察する。
「沢木君、姫乃は私の親友なの。中学校まではずっと一緒の学校だったんだ」
「私、
朗らかに微笑む姫乃に、俺も最大級の笑顔を浮かべていた。
――長月、やっと見つけた。
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